あなたとしゃぼん玉
不倫が始まるもっと前にも、ご飯に何度か誘われたことがあったけど、あのときから頑として断ればよかったね。だって手を出されること気づいてたし分かってた。一人暮らしを始めたときも、家に上げるのを何度か断ってたけど、やっぱり押し通しておけば良かったね。断ってどう思われるのか怖かった。ただただ怖かった。ちゃんと拒めばよかった。わたしがしっかりしないといけなかった。やっぱりやめようって言えれば良かった。ちゃんと拒否しておけば、まだ会社にいれたかもしれない。尊敬していたあなたの下で今も仕事が出来ていたかもしれない。何も始まらずに終われたかもしれない。

避妊だって、ずっと人のせいにしてたね。わたしがゴムを買ってきたら、ピルを飲んでいれば良かっただけの話やね。わたしが最初に危機感を感じていたのだから、何かしらの対策を取っていたら、終わってた話やね。でも、わたしだってちゃんと行動したんだよ。何度伝えてもこの関係が終わらないから会社を辞めるって伝えた。他にやりたい仕事なんて決まっていなかったし、ずっと大矢さんの下で働いていたかったけど、後先を考えもせず、ただもう辞めないとって思った。ずるずる意味の分からない関係が続くのが嫌で、もう仕事にやる気がないと言ったら、救いようがないから簡単に辞めれると思った。会社を辞めたら生活できなくなった。ずっと実家を出たくて、やっと貯金が貯まって始めた一人暮らしが2年も経たずに辞めざるを得なくなった。そんなとき、妊娠が発覚して、絶望感しかなかったよ。誰に何と言われようと赤ちゃんは産みたかった。実家に帰れなくても、関西におれんくなったとしても、同僚や友達を無くしても、ひとりで育てることになったとしても。
< 85 / 93 >

この作品をシェア

pagetop