LOVEREVENGE~エリート弁護士と黒い契約結婚~
「―――大丈夫。
ちょっと、痛いけど」
斗希は、包丁を引き抜いた。
その刃の先には、血が付いているけど、
それは、少しで。
「本…」
そう言った私に、正解だと言うように斗希が笑った。
斗希は、スーツの内ポケットから、
文庫本を取り出した。
それには、しっかりと包丁の刺さった跡がある。
それは、私の実家へと行く時に読んでいたものとは違うけど、
スーツの内ポケットにそれを入れているのは、斗希の習慣なのだろう。
「斗希、お前ビビらせんなよ」
川邊専務は、床にしゃがみこみ、
溜め息をついている。
寧々さんは泣いていて、
もう先程みたいに、斗希や川邊専務に復讐しようとか思っているようには、見えなかった。
「試すような事して、ごめん。
多分、寧々はそこまでしない気がした。
俺と篤の事を恨んでるのは、本当だろうけど。
なんで、こんな事したの?」
「…二人が怯えて、泣いて私に謝ってくれたらって…。
ただ…あなた達が…困る顔が…見たかった…」
泣きながら、寧々さんはやっとの感じで、そう言う。
斗希が自分を刺したのを見て、本当に怖かったのだろう。
斗希のスーツには、少しずつ血が染み出して来て、
本を突き抜け、ある程度は突き刺さったのだろう。
「なんでまた、復讐なんて?
あれから、もう何年も経っているのに」
そう訊く斗希の声は、優しくて。
それは、演技ではなくて。
斗希は寧々さんの事を騙していたのだろうけど、
嫌いではなかったのだろう、と思った。
それよりも、むしろ、好意を持っていたのではないだろうか。