LOVEREVENGE~エリート弁護士と黒い契約結婚~
「あんまり覚えてないって、言ってんだろ?
全く覚えてねぇわけじゃない。
俺から逃げようとしてる小林の事を、押さえ付けてたのも、覚えてる」

遠慮がちに言われるその言葉。


その遠慮は、私に対してだろう。


「あり得ない…。
本当に、あり得ないだろ?
酔ってたからって。
篤、お前何か嘘付いてないか?」


そう川邊専務の顔を覗き込むように見ている滝沢斗希は、言葉で表現するなら、必死で。


この男の、こんな姿が私は見たかったのだと、胸がすくような感覚を覚える。


「お前、時間ないんだろ?
早く話を進ませろ。
こういう場合、どうすりゃあいい?
金くらいしか、俺は思い付かねぇけど」


「…大概は、お金で示談って形になる。
後日、この件での示談書にお互いサインして貰って」


「じゃあ、それ用意してくれねぇか?
示談の金額は、小林お前が決めろ」


この店に入ってから初めて、
川邊専務と目が合った。


いや、今日は殆どまともに川邊専務は私の顔を見ない。


仕事中も視線だけではなく、私と離れて歩き、話しかけて来る事もない。


帰りの新幹線も、川邊専務は取っていたグリーン席には座らず、一人自由席の方へと行っていた。


彼なりに、それらは私に気を使っての行動なのだろう。


自分から仕掛けておいてこんな事を言うのもおかしいけど。


今もそうなのだけど、
川邊専務の存在が怖くて、体が震える。



私のそれを、川邊専務も感じ取っている。

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