この夏、やり残した10のこと
雫はどうやら、朝に弱いらしい。それでもこうして来てくれたのだから、テンションが低かろうと何だろうと嬉しかった。
ふあ、と気の抜けた声と共にあくびを漏らした彼女は、なおも睡魔と戦っているようである。
「雫のすっぴん初めて見たー。え、かわゆ~」
「うっさい。……てか、どこ行くの」
軽く薫を睨んでも、今の雫ではあまり迫力がない。
近江くんと同じ質問を投げた彼女に答えようと息を吸ったところで、背後から自転車のベルが鳴った。
「わりー、お待たせ!」
振り返った瞬間、目を細めそうになったのをぐっと堪える。白いティーシャツが眩しくて、でももっと眩しいのは、屈託なく笑う顔だ。
「あーっ、霧島! 一分遅刻~!」
「一分は誤差っしょ。許して」
「自転車の時点でハンデじゃん、ずっるー」
全員揃って一気に賑やかになった場。この輪の中に自分がいるのが信じられなくて、その分嬉しかった。友達とこうして学校外で交流できること、それ自体が私にとっては貴重で大切な経験なのだ。
やっぱり霧島くんはすごい。彼が現れた途端、みんなの表情が明るくなって、空気も晴れやかになる。
自転車のハンドルを握り直した霧島くんが、にかっと歯を見せて笑った。
「じゃ、行きますか。ラジオ体操」