この夏、やり残した10のこと
もちろん私たちはカードなんて持っていない。
目の前の光景を微笑ましく眺めていたら、突然、横から間延びした挨拶が聞こえた。
声の主は、少し腰の曲がったおばあさんであった。私たちの顔を一人ひとり、確かめるように目を細めている。
霧島くんが「こんにちは」と柔らかく答えた。
「お兄ちゃんたちは、青葉中学校かい?」
「え?」
「ほら、そこの中学校の……」
「あ、違います。俺たち高校生で」
「そうかい」
偉いねえ、と息を吐いて、おばあさんが頷く。ズボンのポケットに手を入れて中を探った後、「ほれ」と何かを差し出してきた。
「飴ね、みんなで分けなぁ。ちょうど入れといて良かったわ」
「ありがとうございます」
透明なビニール包装に包まれた、緑と水色の間みたいな色合いをしたキャンディー。きっとハッカだろう。正直、あんまり好きではない。
幸か不幸か、おばあさんがくれた飴は四つだった。いつもは近所の子にあげるらしいけれど、みんなハッカは嫌いと言って受け取ってくれないみたいだ。
結局もらった飴は、霧島くんと雫が二個ずつ引き取った。薫も近江くんも、ミント系は遠慮したい、とのことである。
小さい包装を一個解き、雫が口に放り込む。からん、と飴が歯にぶつかった音が涼しげだった。