この夏、やり残した10のこと
霧島くんがサッカーをするところを見てみたいと、ずっと思っていた。ユニフォームを着てきらきら汗を飛ばしながら、真剣な目をする彼を。
放課後、こっそり居残って教室から眺める――なんて、そんなことは叶わないから、一度も見たことはなかったけれど。今こうしてサッカーをする彼を間近で注視できるのは、願ってもないことだ。
霧島くんの流しているものが、汗ではなく涙なんじゃないかと思うことが時々ある。それは普段、「泣き顔」から最も遠い距離にいる彼からは想像もつかないかもしれない。
でも、私は一度だけ見たのだ。彼が一人、教室で泣いているところを。
「あっやべ、そっち飛んだわ! わりー近江、おもっきり蹴ってくんねー!?」
声を張り上げて、霧島くんが「へいパース!」と愉快そうに足踏みをする。
近江くんが蹴ったボールは私の頭上を通り過ぎ、霧島くんの横も通過してしまった。
「おぉい、飛ばしすぎ! 近江も試合参加な!」
「は? 何で」
「キーパー頼むわ!」
「話聞いてんのかよ」
不満を述べながらも近江くんは頭を掻いて、やれやれ、とでも言いたげに歩き出す。
私たちも応援団として加勢し、早朝の公園は活気にあふれていた。