この夏、やり残した10のこと
半月、空に流る星の跡
「みんなありがとうね。遥香のためにわざわざ集まってもらっちゃって」
バスに揺られる中、お姉ちゃんが言いつつ眉尻を下げた。
いえ、と首を振った薫は、申し訳なさそうに口を開く。
「むしろ栞さんの方こそ、お忙しいのにすみません」
「あはは、私は全然。夏休みはバイトくらいしかやることないから」
今年大学生になったお姉ちゃんは、何もかもが私と正反対だった。
健康的な頬に、はつらつとした声。短く切り揃えられた髪は彼女の明るい雰囲気を助長する。お姉ちゃんが笑えば一緒にいる人も笑うし、お姉ちゃんが話し出せばみんなが聞き入ってしまう。
私はお姉ちゃんみたいに友達がいっぱいいるわけじゃない。上手に伝えたいことも伝えられない。
だけれど、いつも私の言いたいことを汲み取って楽しそうにお喋りしてくれるお姉ちゃんが、大好きだった。
「次の停留所だね。話してたらあっという間だった」
「薫が一方的に話してただけじゃん」
「それは雫が返事してくれないからでしょ~」
二人の会話に頬が緩む。
太陽が沈んだ空はそれでもまだ僅かに明るくて、夏の日の長さを物語っていた。