この夏、やり残した10のこと
もしかして具合が悪くなってしまったのだろうか。いや、でも近江くんがそのまま帰ってしまう可能性はないこともない。
もともと気乗りはしていなさそうだったしな、と少々気分が落ち込んでいた時。
「あ、近江!」
人の流れに逆らわないよう、器用に歩いてきた彼は、平然とした顔で戻ってきた。顔色は別段悪くなさそうだし、とにかく帰らずにいてくれたことが分かって安堵する。
「ちょっと、どこ行ってたの。帰ったのかと思ったじゃん」
大股で距離を詰めた薫に、近江くんは抱えていたプラスチック容器を指して受け応えた。
「どこって、唐揚げ買いに行ってたんだよ」
「……唐揚げ?」
想定外の返答である。
彼が開けた容器から顔を出したのは、まごうことなき唐揚げ。少し大ぶりで、しっかりと衣がついている。それを私たちの方に差し出して、近江くんは当然のように告げた。
「祭りと言えば唐揚げだろ。ちょうど五個入りだから、一人一個ずつな」
みんながみんな、きょとん、という効果音が適切な顔で数秒黙りこくった。
なんだよ、と怪訝そうに身を引く近江くんに、薫が口を開く。
「いや……え、本当に近江だよね? 中身違う人になったとかじゃない?」
「はぁ?」
「友達と分け合うとか、そんなことできる人だったんだね」
「足立の分は俺が食っとく」
「うそ! 冗談! 近江、めっちゃ優しーい!」