この夏、やり残した10のこと
能天気すぎるほど、明るい声色だった。
思わず目を見開く。ラッキー? ラッキーって、どういうことだろう。
顔を上げるのが怖い。先の言葉を知りたい。彼の意図が分からない。
不安、興味、疑問。一度にたくさんの感情が襲ってきて、だけれど不思議なことに、不快ではなかった。
恐る恐る霧島くんの顔を窺う。目が合って、彼は晴れやかに笑って、そして。
「出雲が学校に来るの、レアってことだろ。だから、今日会えた俺も、みんなも、超ラッキー」
ああ、――眩しいなあ。
窓の向こうで青空が流れている。それを背景にして、霧島くんは笑っている。
ほんの少しの勇気を出して、顔を上げた先。真っ白なワイシャツが目の奥に染み込んでくるようで、痛いくらい。
でも、それより何より、目の前で、視界の真ん中で笑う彼が、ずっとずっと輝いている。真ん中にいてくれて良かったと、心底思う。
「え――」
驚いたように瞳をまん丸にした霧島くんの境界が、青空と混じって滲んでいく。
「あー。斗和、お前泣かせちゃったじゃん」
「え、ごめん! 出雲、ごめん! 俺なんかまずいこと言った!?」
騒がしい声が聞こえる。
ううん、違うよ。違うんだよ。私は、いま嬉しい。
霧島くんが笑ってくれて、この教室で最初に話したのが霧島くんで、本当に良かった。