この夏、やり残した10のこと
――あの日からずっと、私にとっての青空は君だった。
辛い時、見上げて気持ちが明るくなるように。霧島くんは、ずっとずっと、私の憧れの男の子だ。
青空を、探している。色鮮やかな浴衣とすれ違う中、たった一人、眩しい白のティーシャツを着た彼を、探している。
だけれど、人が多すぎてよく見えない。たこ焼きの屋台を見つける方が早そうだと見当をつけ、私は辺りを見回した。
薄ピンクの背景に、黒い太字で「たこ焼き」。鉢巻を巻いたタコのイラストと目が合う。
見つけた。屋台のおじさんに注文をしている彼。
地面を蹴った。それはほぼ衝動的なもので、霧島くんがそのままどこかへ行ってしまうんじゃないだろうか、と妙な不安を覚えたのだ。
人混みを掻き分ける。走り慣れていないから、すぐに息が上がる。
「霧島くん、」
ひゅう、と喉奥から弱々しい呼吸が這い上がってきた。体が悲鳴を上げているのか、自分の心が嘆いているのか、もう分からない。
そういえば、おかしいのだ。今の私なら何でもできるはず。それこそ、走るくらいどうってことない。
それなのに、私はどうしてこんなに苦しいのだろう。
「霧島くん……!」
急がなきゃ。もっと走らないと、彼が行ってしまう。
もう私には、時間がない。まだ彼に何も伝えられていないのに、このまま終わるわけには――。
「霧島くん、待って!」