この夏、やり残した10のこと
どうして、と問いたげに霧島くんが拗ねる。それを見た近江くんは、淡々と述べた。
「つくられる段階で一本一本、微妙に変わってくるんだよ。長く細く保つのもあるし、目一杯光ってすぐに落ちるのもある」
人間でいう、個性みたいなもの、だろうか。
そう思ったと同時、近江くんが私の心中を見透かしたかのように付け足す。
「線香花火の燃え方は、よく人の一生に例えられる」
最初は弱く震えながら、少しずつ蕾が開いていく。その様子が、若々しい「牡丹」の花。
それから大きく燃え盛るターンに移り変わって、人生で一番の節目、結婚や出産を経る中で幸せを掴んでいく。これが力強く勢いのある「松葉」。
その後、火花が小さくなり、散り方も下を向いて穏やかになる。一段落して落ち着いた大人の時間、ゆっくり垂れ揺れる「柳」。
そして僅かな火花が静かに舞い、火球も尽きていく。人生の終焉、花びらが儚く散り落ちる「菊」。
近江くんの話す声は、熱くて暗い夜の中で、なおも涼やかだった。
彼がこんなに沢山喋る人だなんて、全然知らなかったのだ。あの日、薫が声を掛けなければきっと、知らないままでいたんだろう。
「俺らは、まだ『松葉』ってことか」