この夏、やり残した10のこと
薫の限界宣言により、男女で分かれて海の家の更衣室へ向かった。
色褪せた看板に「Welcome」と書いてある。外には浮き輪と、ソフトクリームサイン。
懐かしい、と思った。だいぶ前に連れてきてもらったんだろうか。正確なところは思い出せないけれど、いつかの自分がこれを見ていたような気がした。
「うわぉ。雫の水着、大人っぽーい」
二人とも服の下に水着を既に着ていたようで、あとは脱ぐだけ、といった状態だった。
ティーシャツの下から現れた雫のビキニは、紺色と白のギンガムチェック。彼女にしては無難なデザインのそれに、少し驚く。
「まあ、お下がりだけどね」
「へー。お姉ちゃんいるんだ? 雫は一人っ子っぽいなーって勝手に思ってた」
「よく言われる」
髪を結び直し、雫が会話を広げた。
「いっつも服やら何やら買ってきて、これ似合うんじゃないって押し付けられるんだけど、自分で選ばせろって話だよね」
「え~、仲良しじゃ~ん」
別にそうでもない、と若干恥ずかしそうに否定した雫。私もお姉ちゃんがいる立場だから、そういったところの機微は分かり合える気がした。
着替えが終わって外へ出ると、再び刺すような光と暑さに体が包まれる。
「お、きたきた」