この夏、やり残した10のこと


待ってました、と言わんばかりの口調で私たちを視界に入れた霧島くんが、脇に抱えていたものを体の正面に持ってきて、にかっと笑った。
薫が怪訝そうに首を捻る。


「何それ。……サメ?」

「そ! 浮き輪な。いまそこで借りてきた」

「霧島ってカナヅチだっけ?」

「違ぇよ! こういうのあった方がテンション上がるだろ」


青と白のボディに、ぱっちり黒目。空気でぷくぷくに太ったサメは、随分と可愛らしい顔つきをしていた。
霧島くんも小学生みたいなことを言うんだな、と微笑ましくなる。

と、雫がそのサメに手を伸ばして、口を開いた。


「ポチ、おいで」

「ポチ!? サメなのに!?」

「じゃあ、ジョーズ」

「ポチで頼むわ」


そんな命名作業を経て、私たちはポチと共に、海へ向かう。踏みしめる砂は、潜んでいた暑さが足の裏に吸い込まれていくようだ。


「うおっ、冷てー!」


じゃぶじゃぶと海水に両足を突っ込んだ霧島くんが、少しだけ背中を震わせた。彼が振り返った拍子に、空中のきらめきを拾いながら水飛沫が舞う。写真におさめたくなるような一瞬だった。


「ちょっとー、ポチの扱い雑すぎ! 愛を込めて接しろー」

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