この夏、やり残した10のこと


霧島くんを追いかけ、薫が声を張る。それに雫も加勢して、近江くんは一人その場にゆっくりと腰を下ろした。けれど、すぐに招集命令をかけられ、若干呆れたように三人の元へ近付いていく。

きらきらと揺れる目の前の水面に、しばらく見入っていた。

みんなのおかげで、私はいま、とっても幸せだ。こんなに沢山、思い出を作ってもらえるなんて、思っていなかった。
嬉しいのに、とっても嬉しいはずなのに、どうしたって寂しい。思い出が増える度、みんなと過ごす日を重ねる度、夏休みは終わりに向かっていく。


『死ぬ時って絶対後悔するし未練残るじゃないですか。だったら、まあこれは神様が決めたんだから、って思えば割り切れるというか……』


静かに目を閉じる。彼の言葉が頭に浮かぶ。

私も概ね、その意見に賛成のはずだった。運命なんて自分じゃ決められないから、神様が描いたシナリオに従うことに、なんの抵抗もなかった。

だけれど、今はちょっと違う。
これまで圧倒的に空っぽだった私に、質量を与えたのはみんなだ。未練をつくったのは、みんなだ。
この時間がずっと続けばいいのにって、私はいま初めてそう思っている。


「あっれー? 糸川さんじゃん」

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