この夏、やり残した10のこと
遠くに散らばっていた思考が、聞き慣れない声によって戻ってきた。
つと後ろを向けば、綺麗な女の子が三人。ピンク、水色、カーキ。凝ったデザインの水着が、彼女たちの白い肌を彩っている。
そのうちの一人が口元に手を当て、小首を傾げた。
「え~、ウケる。糸川さんも海とか来るんだね」
雫の友達だろうか。でも何だか、他人行儀だ。呼び方だけの話ではなくて、彼女たちの表情も親しみのあるものではない。
そして当の本人である雫からも、別段再会を喜んでいるような雰囲気は感じられなかった。
「『お友達』いるじゃん、良かったね! 一人じゃこんなとこ虚しくて来れないっしょ」
「バカ、そーゆーこと言うなって~」
「あっは。ごめぇん」
重みも厚みもない謝罪が、その口から発される。
あまり空気を読むのが得意ではない私でも、嫌な人たちだな、というのは伝わってきた。
それはきっと他のみんなも同じだったのだろう。はしゃぐのをやめて、今は静観に徹していた。
雫は、何も言わない。ただじっと、彼女たちの薄い笑みを見つめていた。
「てか、ほんとに友達かどうかも怪しいでしょ。全員地味だし。ぼっちの寄せ集め?」