この夏、やり残した10のこと
死んだら天国へ行く。漠然とそう思っていた。人一倍、生死について考える時間が多かったから、私は死んだ後どうなるのだろうと、いつもそれだけが不安だった。
だけれど、ふと気が付いた時に目に入ってきたのは、天国の雲でも、地獄のマグマでもない。
いつもの病室のベッド。そこに横たわる「私」を囲む、親しい人たちの姿だった。
「遥香……」
お姉ちゃんが掠れた声で、しゃくりあげながら私の名前を呟く。その肩を抱くようにして、お母さんの腕が震えていた。お父さんの背中は、丸まっている。
普段からよく看てくれていた病院の先生と看護師さんの横顔が、痛々しげに歪んでいた。
その少し後ろで、たった一人、すっかり俯いてしまっている女の子。両手で顔を覆って、肩を震わせて、耳を真っ赤にして嗚咽を堪えている、私の大切な友達。
一体自分は、何を見ているのだろう。どうなってしまったのだろう。
私はここにいるのに、そこにも「私」がいる。みんな「私」を見て、はらはらと涙を流している。
よく分からないけれど、私はどうやら、魂だけうろついているみたいだった。
それを本当の意味で理解したのは、お葬式や火葬が行われ、私のお墓の前で、みんなが手を合わせている時。
ああ、私、ちゃんと死んだんだなって。そう思った。