この夏、やり残した10のこと


うん、そっか。そうかもしれないね。確かに、今まで通り病室で大人しく横たわっていれば、私は今も、みんなと同じ世界線にいたのかもしれない。
でもね。死んでしまった今年の夏の方が、楽しかったよ。って、そんなことを言ったら色んな人に怒られてしまうかな。


「霧島くん」


ねえ、霧島くん。霧島斗和くん。
とわって素敵な名前だ。永遠って書いて、とわって読むんだよ。知ってる? 君はサッカーに夢中で授業中寝てばっかりだから、心配だよ。

でも、諦めないでいてくれて良かった。高校に入っても、また、霧島くんがサッカーボールを追いかけていてくれて、良かった。


「霧島くん、ありがとう」


私がこの夏にやりたいこと。最後の一つは、「霧島くんに感謝を伝えること」。だけれど、本当は、ずっと――


「私、霧島くんのことが、好きだよ」


自分の声が聞こえればいいのにって、触れられればいいのにって、みんなといて思った。
でも今だけは、聞こえなくて助かった。こんなこと、面と向かって言うには恥ずかしすぎるね。

しゃがみ込んだまま、ぼろぼろと涙を流す彼に、彼の手に、触れる。触れられないのに、触れる。もどかしくて、ぎゅっと、両手でしっかり掴んだ。


「霧島くんが泣いてるとこなんて、レアだよ。見れた私、やっぱりラッキーだ」

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