この夏、やり残した10のこと



「てか雫、また髪色変えたの?」


電車から降りて改札を抜ける。
足立がそんな質問を投げかけながら、糸川の長い毛先を摘まんだ。


「そー。明日から夏休みだし」

「フライング夏休みじゃーん」


似合ってるぞ、と親指を立てた足立に、俺の前を歩いていた近江が振り返る。


「早くしろよ。暑いんだから」

「うるさいなぁ、女子と男子じゃ歩幅が違うんだって。そんなことも分かんないの、だからモテないんだよ」

「今は関係ないだろ」


思い切り顔をしかめ、近江はまた前に向き直った。それでもさっきより若干歩くペースが落ちているから、足立の攻撃が効いているらしい。

緩やかな坂道を登れば、墓地が見えてくる。早くも西日が眩しかった。

高校生になって、二回目の夏。
今日は終業式の後、去年みんなで遊びに行った海を訪れた。本来の目的は海ではなくて、これからするお墓参りだ。


「ていうか、何で今日? もっと時間あるときにゆっくり来ればよかったのに」


ねえ遥香、と同意を求めるように墓石に水をかけた足立は、随分と優しい目をしている。近江への対応とは大違いだ。


「どうしても今日じゃなきゃ駄目だったんだよ」

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