この夏、やり残した10のこと


逡巡した挙句、雫が私の名前を呼んでくれた。何となく気恥ずかしいのか、彼女は視線をさ迷わせている。淡泊な子なのかと思っていたけれど、そういうわけではなさそうだ。急に親近感がわいた。

雫ともうちょっと仲良くなりたくて、何か話題はないかとぐるぐる思考を巡らせる。結局思いつかなかったし、その間に薫が私のソフトクリームを食べていたけれど、こんなに大勢での帰り道は初めてだったから、何もかもが楽しかった。


「近江ー、俺もバニラ食いたくなってきた」

「もう一個頼めば」

「いや一口ちょうだいって言ってんの。分かれよー」


霧島くんが近江くんの肩を組んでじゃれる。
暑いから離れろ、と近江くんは鬱陶しそうに顔をしかめた。


「ソフトクリームはバニラだろ。それ以外邪道」

「あ、……わ、分かる。私も、そう思う」


近江くんの発言を拾って、咄嗟に反応する。急に会話に割り込んでしまって馴れ馴れしいと思われるかな、と危惧したけれど、彼は別段私を咎めることはなかった。


「え~、まあバニラは確かに美味いけどさ~……そんなこと言ったら期間限定フレーバーの立場どうすんの」

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