私は1人じゃない
私の左手を強く掴まれる。
そして冷たい壁に背中が当たる。
漣の顔は近くて怒ってるようで怖くて体が動かない。
「蓮………やめて………。」
「うるさい」
私を掴む手が強くなって離してくれない。
右手も掴まれて身動きが出来ない。
「私本当のこと言っただけじゃん………。」
「そうだな」
漣はずっと私の目しか見ない。
何を読み取ろうとしているのかさっぱり分からない。
「目を逸らすな」
あまりにも近いし緊張で目を逸らすと顎を持って戻された。
蓮の目はまだ怒ってる。
「でもお前にはそう思われたくない」
「…………」
「もう女と遊ばねえ、杏衣だけでいい」
「…………どういうこ、と……」
「……お前の全てが知りたい、そしてお前に俺の全てを知って欲しい」
蓮はずっと私の目から目を逸らさない。
何かを確信しているかのように。
何かを心で決めているかのように。
「蓮、おかしいよ………」
「何が」
「よく分からない……」
よく分からない。
本当に分からない。
でも、自由奔放に生きているように見えた漣が今はそのように見えない。
「お前しか見れないんだよ」
「………何言ってるの………」
「他の女じゃだめ、杏衣だけでいいって言ってんの」
「なんで………」
「知らねえ」
「…………」
「けど、これだけは言える、俺は杏衣以外を好きになれない」
「え……」
蓮の表情から見て嘘だと思えない。
多分、本当だと思う。
「俺だけを見ろ」
「…………」
「俺を好きになれ」
「…………」
「杏衣」
「…………」
「杏衣、何か言えよ」
「……………」
何を喋ればいいか分からない。
今までの蓮の言葉がウソだと思っている訳じゃない。
だけど、“信じられない”
蓮の気持ちは本当だと思うけど、蓮が私を好きになっているのが“信じられない”。
自由奔放に女遊びをしている蓮がこんな傷だらけの私を好きになるなんて信じられないし、
私は蓮のことを好きになれない。
そんな気がする。
理由は分かっているつもりだけどまだ確信になってないし、まだ心の中にある“孤独”と葛藤していて勇気が出せない、気持ちを出す1歩が踏み出せなくて、言葉には出ない。
でも蓮以上に勇斗さんが私の心を占めているのは本当。