私は1人じゃない
「杏衣ちゃん」
「うん?」
「口紅さ、ピンクがいいかな、ちょっとオレンジっぽいのがいいかな?」
どっちでも似合うと言いたいけど、迷っているから私に聞いているわけでどっちでもいいと言えば聞いた意味がなくなってしまう。
「ピンクかな?」
「そっか!じゃピンクにするね!」
丁寧に手鏡を見ながら口紅を塗っている七瀬ちゃん。
ますます綺麗になっていく七瀬ちゃん。
シンデレラにでもなりたいのかな。
理由は、七瀬ちゃんは凌のことが好きなんだと思う。
凌を見るだけで顔が赤くなっていたし、一生懸命に凌に話しかけていたし、今日の朝凌を見て、小声で「凌くん、かっこいい」と呟いたのも聞こえた。
朱莉も気づいていて、「応援してあげよう」と2人で見守っているつもり。
七瀬ちゃんは完全に恋する乙女。
凌も漣と同じように特定の女の子を作らないし、七瀬ちゃんが傷つくか心配だけど止められない。
前の席から「はぁ〜寝たよ〜」という凌の寝起きの声を聞いただけで目を輝かせた七瀬ちゃんを止められるわけがなかった。