私は1人じゃない
「何するんだよ」
「霧野さんはどこにいる、顔だけでも見たい」
「あいつ今シャワー」
「この部屋で?」
「俺の部屋だけど悪りぃか」
悪いよ。
超悪い。
今すぐに連れ出したい。
でもそれは出来ない。
“教師”って立場があるから。
「霧野さんの部屋に連れて行った方がいいんじゃないか、ここは水樹の部屋で佐久間も柊木の部屋でもあるんだ」
「いや、ここで寝かせるから」
なにを言ってる。
水樹と杏衣ちゃんが同じベッド??
想像しただけで無理だ。
「霧野さんの部屋は923号室だからそこで寝ないとだめだ、部屋に森山や宮原もいるんだから」
杏衣ちゃんを水樹の部屋で寝かせたくないってのと修学旅行上のルールを言った、正論、ど正論を言った。
私情は挟んでない………つもり。
「杏衣は連れて行かない、俺が面倒見るから」
水樹は杏衣ちゃんのことが好きだと確信した。
今までは水樹と話したわけじゃないしあくまで俺の想像だったから心のどこかでは違うかもしれないと思っていた。
でもホテルのロビーで見た杏衣ちゃんを強く抱いている姿、杏衣ちゃんを面倒見るのは好きじゃなかったら面倒なんて見ようと思わない。
あぁ、なんてことだ、生徒にこんなこと思いたくないけど、“ライバル”が現れた。
落ち着け、今は私情を持ち込まない、杏衣ちゃんは生徒、杏衣ちゃんは生徒……。
「霧野さんに何があった」
「うーん、俺絡み」
「どういうことだ」
「そういうこと」
水樹と話すと自律神経が乱れてしまいそう。
水樹がなにか悪いことでもしたのか。
「詳しく話してくれないか」
「今はそういう気分じゃねえ、どうせ他の先生に言うんだろ」
どういう気分だよ。
授業には出ないで、出たとしてもずっと寝てるし教師の間で“問題児”だとレッテルを貼られているけど成績は常に上位にいるし何なんだこいつ。
「分かった後で担任の木原先生にでも言って、霧野さんは元気なんだよな?」
「心配すんな、俺が杏衣を最後まで見るから」
俺が何を言っても水樹は折れなさそう。
先生をびくともしない水樹に少しイラつくがここは抑えないと。
「あぁ、分かった霧野さんのこと頼んだぞ」