私は1人じゃない



「水樹、そこで何してる」
「バレたか」



「こんなせこいことするとは思わなかったよ」
「気になったからなあ」



数学教材室の前で話を盗み聞きしてた。


ドアが閉まってからよく聞こえなかったが、一人暮らししたい、離れたいと言って杏衣が泣いていたのだけは分かった。



なんでそう言うかが分からない。


杏衣は和藤が好きなはずだ。


どうして離れる必要がある。


俺には悪いことではないが。


和藤も和藤だろ、好きなら離すかよ。


はぁー、意味わかんねえ。


杏衣が和藤と上手く行ってもモヤモヤするし、和藤とすれ違ってもモヤモヤする。



どうしたいんだよ俺。



「そんなに霧野さんが気になるの?」
「まぁ好きだからな」



「………そうか」


悲しそうな目したな。


一瞬だったけど見逃さなかったぞ。


「誤魔化すなよ、好きなんだろ杏衣のこと」



なんで分かったって目してんな。


「一緒に暮らしてるんだしあんな可愛くて保護したくなるやつを好きにならないわけないよな」
「………どこまで知ってる」


いつもの優しそうなふわふわした感じはどこにいった。


声が低くて一瞬びびったじゃねーか。


「全部なんじゃねーの、知らねえけど。学校には言わないから安心しろ」
「何が言いたい」


「俺は杏衣を離さない」
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