私は1人じゃない
一瞬幻聴に聞こえた。
「なんだって」
「杏衣ちゃんはお前のことが好きなんだよ!!」
「声がでかいんだよ」
「聞こえてないお前が悪い」
周りがチラチラ見ている。
まずそんなことはどうでもいい。
「なんでそう思うんだよ」
「俺の勘としか言えないけど、倒れて病院来た時すぐにお前を探してたし、お前の顔見て安心したあの顔は嫌いな人には見せないな」
「でもそれは結構前の話だろ今はどうか分かんないだろ」
「なら本人に聞けよ」
「は?」
「出て行ったままにするつもりか、このままだと気まづいだろ、まずは話す、それからだろ」
このままではダメだと分かってる。
が、杏衣ちゃんに何を話すべきか……何を話したらいいか分からない。
それでも向き合わないと何も始まらないよな。
「あいつとはどうなってんだよ」
雅紀がいうあいつは梨沙子のこと。
雅紀、俺、梨沙子。
3人で大学の同期。
だから雅紀は俺と梨沙子の間に何があったのか全部知ってる。
「言われたよまたより戻したいって」
「まじで…………あんな別れ方したのにか?」
「俺もやっと忘れられたのにな」
「返事は?」
「まだしてない、今回は梨沙子本気なんだよ」
「お前は杏衣ちゃんに対して本気じゃないのかよ」
本気だ。
本気に決まってる。
本気で好きで、好きを超えて愛してる。
でも生徒と教師という関係を考えると言葉に出せなかった。
ずっと俺の心の中に留めて卒業まで待とうと思っていた。
でも、もうこれ以上曖昧にして杏衣ちゃんを傷つけるわけにはいかない。
「本当の優しさは好きな人にだけ使えよ」
雅紀の言う通りだ。
分かってる。
そうしないと両方傷つくと分かってる。
どんな方向に事態が転がっても気持ちにけじめはつけなきゃいけない。