私は1人じゃない
2年の中での「霧野」は霧野 杏衣のことだった。
みんな心配しているからちゃんと生きてるって言いたいが、何で知ってるかを説明は出来ないから口を紡ぐしかない。
杏衣ちゃんの担任の、(確か木原先生と言っていた)先生が電話をかけている。
「出ないなぁ〜」
「あの、あ、、霧野さ、ん出ないんですか?」
「あー、新しくきた和藤先生、3組の霧野 杏衣って子がまぁ色々あって心に傷がある子なんだけど、学校には保健室登校になる日もあるけど毎日来てくれたのに最近来なくて心配なんです」
詳しく聞いてないから何とも言えないけど、体の傷を見る限り、相当親からやられたんだろう。
杏衣ちゃんが「こんなに楽しい時間初めてかも」と呟いたのを俺は聞いた。
楽しいと言ってもご飯食べて映画見たらたまに出かけたりする普通の日常を過ごしているだけだった。
今まで杏衣ちゃんにとっての「普通」は俺たちの「異常」で
俺たちにとっての、「異常」が杏衣ちゃんにとっての「普通」だったのだろう。
だから、何も言わずに見守っている。
とは言っても学校に電話をしてないとは思わなかった。
流石にした方がいい。
でも杏衣ちゃんは情報を遮断したいのか知らないけどスマホを触りもしない。
あぁ、せめて、「霧野さんは無事です」と言いたいけど言えない。
「あの、母親って何してる方なんですか?」
「あぁ、テレビにもよく出てるアパレルの社長です、熊谷舞香、聞いたことありません?」
テレビに出てるのを見たことがあるような…
ネットショッピングに出てた気がする。
「最近結婚したらしいんですけど、人は見た目で判断しちゃいけないですね」
木原先生がボソッと言った。
本当に杏衣ちゃんに出会ってからそう思う。
外見を整えても内面がクズじゃ意味がない。
自分の子供に暴力を振るうなんてあり得ない。
親も人間だから完璧じゃない。
でも親が与える愛情って子供の人格形成に大きく関わる。
子育てに正解なんてないけど、不正解はあると思ってる。
それでも杏衣ちゃんは耐えて頑張ってねじ曲がらずにここまでやってきたと思う。