私は1人じゃない
勇斗さんがいると思われる数学準備室に向かう。
2人分の弁当を持って。
コンコンしても返事がない。
でもドアは開く。
「先生、いますか?」
「先生ー………」
いないと思ったら、和藤先生の机が置かれているそばのドアから和藤先生と朱莉が出てきた。
まさかの朱莉がいることにパニック。
この状況をどう切り抜ける??
正直に話す?
何も悪いことをしてないのに頭が混乱する。
「杏衣、どうしたの?」
「え、えーと……」
「朱莉こそ和藤先生となにをしてたの?」
「前回の数学のテストが赤点だったから特別課題の提出に来たの」
「え、珍しい」
「数IIBなんて暗号みたいで分からない!それに部活で大変だったし」
朱莉は陸上部で短距離専門。
何回か大会に応援に行ったことがあるけど、県では朱莉に敵う人はいないくらい、私の中では女のボルトだと思っている。
朱莉は初めてインターハイに行けるため、一生懸命朝から晩まで練習をしている。
そりゃ勉強は二の次になる。
「そうなんだ」
今日は弁当を渡さずに帰ろう。
弁当はクラスの男子にでも渡せば食べてくれる。
「ね、その弁当2つあるけど私の分?いつも杏衣自炊するから、私の分作ってくれたの?」
1番指摘してほしくないところを突かれた。
「え?そうじゃなくて…」
いい誤魔化しの理由が出てこない。
妹弟がいるわけでもないし、でも本当のことは言えないし…
「誰の分?………ここには私と杏衣以外に2人しかいないよ?」
朱莉が和藤先生の顔を見る。
和藤先生は完全に苦笑い。