私は1人じゃない
つい2ヶ月前、夜の22:00ごろだった。
ママが男を連れてきた。
半年前から付き合い始めていたらしく、バーで出会って一目惚れで付き合って、初めて会った、と。
ママよりも3歳年下の32歳。
高身長でいかにも女に困ってませんっていう顔で私の目の前で手を握ったりキスしたりするから、お互いにぞっこんなのはすぐ分かった。
私は、ただ恋人を連れてきたと思って適当に挨拶して2階の自分の部屋に上がろうとしたら、
「今日入籍したから」
「え?」
流石にびっくりしてママの顔を見ると、あっけらかんとしている。
入籍?過去形?
流石に「なんで過去形なの?」
と聞いたら、「あんたに報告する義務ある?」と言ってママはその男と手を握って見つめ合って微笑んでいる。
それに男は見て見ぬ振りだし。
私とは手を握った?
顔を見て笑ってくれた?
顔を見ればすぐ叩かれて微笑んですらいないのに、出会って半年の男にはそんなにベタベタ出来るんだ。
私とはもしかして血が繋がってないの?
でも、ママとは顔の骨格と鼻がそっくりだから血は繋がってるよね。
親子っぽいことされてないけど親子なんだから、新しい家族ができるなら、結婚する前に、紹介するのが普通だよね。
いきなり入籍してその人を受け入れられるほど心広くないよ。
それに1回会っただけこんなこと言うの失礼だけど、いい人に見えない。
「これから一緒に暮らすの?」
これが夢であってほしいと一瞬だけ願って、聞いてみた。
「当たり前でしょ、杏衣には拒否権とかないから、お金出してやってんだから従いなさい」
もうこの時には、全てを諦めていたのもしれない。
ママには何を求めても無駄で、今までの私の頑張りも無意味だった。
この日はずっと泣き続けた。