私は1人じゃない



暑さのせいで体はだるくなって眠いし、それに、私に対する目線が多すぎて気持ち悪くなって一足先に帰ろうと思って、グラウンドから立ち去る。



「そんなに恋したいもんかなあ………」


体育祭をしたはずなのに体ではなく心が疲れている。


校門を抜けようとすると、



「熊谷、いや霧野か」
「大事なところ間違った〜〜」
「るっせえ」


声のする方を向くと、赤いシャツに2人とも赤いハチマキを首にかけている。


やんちゃな人はそういう使い方をするもんなのかな。


今はもう1人になりたい気持ちが強いから無視して帰る。


「ちょっと待てよ」


昇降口の階段に座っていた2人が立ち上がって私の腕を掴む。


「なにするの!」
「待たないお前が悪いだろ」


「なんか用?」


2人の顔は風雅さんみたいな不良みたいな顔じゃない。


2人とも顔がお綺麗である。


この2人組もしかして、同じ学年の…


「俺ら知ってるよな」


名前が思い出せない。


なんで数学の公式とか、古典の文法はすぐに覚えられるのに人の名前は覚えられないんだろう…


でも体育着のシャツの右袖に名前が書いてある。


「水樹 蓮、、と、、佐久間 凌、、」
「流石にわかるよな」
「せーかい!」


自分で有名だと思うその神経に少しムカつくけど、この2人は学校で有名なのは事実。


私と同じ学年で入学してからかっこいい2人組だと有名で告白した女子は学校だけでも数十人にも及ぶらしい。


でも2人は誰とも付き合わずにただの体友達だけ作って特定の人は作らないらしい。


と、風の噂で聞いたことがある。


私は1年も今も同じクラスになったことがないし、基本的に人に興味がないから2人にも興味がない。


「近くで見ると綺麗な顔してんな」
「用はなに?」


「シカトすんな、さっき告白してきた組頭を振った理由が気になってな」
「あんたに関係ない」


「それはそうだけど、これから仲良くしたいから一つ二つの質問には答えてほしいな〜」


なんなのこの人たち。


体育祭というイベントを利用して、アドレナリンが出ているからと隙を見て仲良くしようとでもしてるの?



「誰が仲良くなるって言ったの」
「これからそうなるはずだ」


「そうはならないし、もう疲れたから帰らせて」
「帰らせるから、答えてなんで振った」



「誰かに頼らないことが自分を守ることになるから」


2人の動作が止まった。


何を感じたのかは知らないけど、佐久間は目が大きくなって、水樹は握ってる私の手を離した。


ママから離れて気付いたこと。


誰しもが愛されたいと1度は思う。


それは悪いことじゃない。


でも誰かを求めてしまえばいつか傷ついて裏切られる日が来る。



血が繋がった家族でさえ簡単に捨てられるというのに。



そんな日が来るくらいなら、誰も求めない。


今は和藤先生に生活面を頼っているけど。


「帰る」

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