私は1人じゃない



風雅さんが校舎に戻ってすぐに私は、階段を駆け上がる。



本当は行きたくない、無視したい。


けど、あんなに堂々とされたら、突っ込まざるを得ない。


高校に入学してから来るのは初めて。


「ねえ」


天気は快晴で心地よい風が吹いてる。


真逆に私の心は心地良くないけど。


「おう」
「来た来た〜!」


佐久間が笑顔で手招きする。


その笑顔は純粋に見れば元気でいい笑顔だと捉えられるけど今の私には悪魔の笑顔にしか見えない。


そして水樹は無表情で私を見つめる。



「来た来た〜じゃない、本当になんなの」
「なんなのってなんだ」


広い屋上には私と水樹と佐久間の3人だけ。



鉄製の長いベンチが5つ並べてあって、その真ん中の3つ目のベンチにパンや財布、そして2人が座っている。


「屋上から見ればバレないとでも思った?あんな堂々と見てたらバレるに決まってるでしょ」
「だろうな」



「分かっててあんなことしたの?」
「見えるんだからしょうがない」


ベンチから立てばグラウンドは360度見えるけど、見ないフリとかこの2人にはできないのかな。


「分かった、見えちゃったのはしょうがない、またこういうことがあったらやめて」



時計を見たら昼休みがあと20分しかない。


急いで昼ごはんを食べなきゃ。


「ここで昼飯食えば」
「………は?」


「ここで食べて授業サボったら、霧野ちゃーん」
「佐久間、うるさい」


「佐久間って言い方嫌だから凌って呼んで、あとコイツのことは漣でいいから」
「水樹と佐久間が呼びやすいからこのままでいい」



「漣と凌って呼べって」


なんで同い年の水樹から命令口調で言われなければいけないの。



「って」って語尾についてるから少しはマシな命令かもしれないけど。



でもこの人たちと出来るだけ関わりたくない。


言われた通りした方が考えなくていいから楽だし案外スムーズかもしれない。



「もう分かった」
「はい、じゃ決定!」



凌が私の肩を無理やり下ろして椅子に座らせパンを食べる。


久しぶりの購買のパン。


塩メロンパンを食べようとすると、漣も同じパンを食べていてちょっと恥ずかしい。


「同じか」


好きでもない人と好みが合うのはあまり嬉しくない。


「……好きなのこのパン」
「そうだな、いつも食べてる」


1つのものにハマったらずっとそれだけのタイプなのかな。


「俺はあんぱんが好きだなぁ〜」
「凌には聞いてない」


「うわぁ冷たい霧野ちゃん」
「いつもだから」


「俺より冷たいんじゃないか」
「蓮の方が冷たそうな顔してる」


2人とも顔は整ってるけど、蓮の方がキリッとしている。


凌は蓮より身長も低いからか、ちょっとトイプードル系。


「けど女の子には甘い時には甘いからな、ずるいよなぁ」
「凌一回黙っとけ」


「はーい」


凌は分からないけど基本的に冷たい蓮が少しでも甘く囁いたら女子はすぐに惚れると思うし、そういう方法で数え切れないくらいの女子を落としてとっかえひっかえしてきたのかもしれない。



風の噂は本当なのかもしれない。


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