私は1人じゃない





塩メロンパンを食べ終わるとちょうど4限目のチャイムが鳴った。



「サボっちゃおうーね?」
「あまり授業に行ってないからまぁいいや」



「授業サボる時は屋上に来て俺らがいるから」
「ずっと屋上にいるの?授業は受けないの?」



「まぁね、俺らは勉強しなくていいんだよ」
「なにその専売特許みたいなやつ」


「あーそれはね、「凌言わなくていい」」


1番気になるところを蓮が阻んだ。


凌も、「そうだね、気にしなくていいから」と苦笑いしている。


言いかけて気にしなくていいからと言われると余計に気になる。


「杏衣、俺らは友達だからいつでも来い」
「なにそれ」


誰がいつ友達だと言った?


つい2、3日前に初めて喋って、仕方がないから屋上に来て話したのに、


しかも仲良い人たちで喋るような内容ではない話をしたのにそれで友達?



友達の定義が分からないし、2人と友達になる気もない。


「こういう風に繋がったのも何かの縁だから、ね?」
「だから友達になれと?」


「なれじゃないもうなった」


もう支離滅裂してる。


2人ともはちゃめちゃで自分勝手すぎる。


「はぁ……」


少し残っている牛乳を蓮の顔にぶちまけたいけど、汚いしやってはいけないことだから我慢する。


「これ俺の電話番号、登録しとけ」
「なんでよ」


「ダチだから」
「なったつもりない、それに連絡することない」


「これから出来るかもしれないだろ」
「はい、これ俺の!登録してね!」



絶対にいらないであろう2人の連絡先。


いらないけどこれ以上拒否するとうるせえとか言われてもっとうるさくなるから連絡先が書かれた紙だけもらう。


登録するかは別として。


「杏衣の電話ちょうだい」
「イヤ」


2人にバンバン掛けられる気がして渡したくない。


特に凌。


フレンドリーだから暇な度に連絡して来そう。


蓮は電話やメールしなさそうだけど万が一があるから無理。

「まぁいいや、連絡先はなんとかもらえるかもしれないから」


蓮が小さく消えそうな声で言ったけど私の耳には届いた。


「どういうこと」
「何が」


「連絡先貰えるかもしれないって」
「気にすんな」


「気になる」
「気になるなら電話番号教えろ」


「はぁ………」
「そんな大きなため息つくな、幸せが逃げる」


もうとっくに幸せなんて私にはない。


私の行いのせいで逃げたんじゃない。


私は幸せになれない。


でも幸せになりたい。


幸せは人それぞれだし何が私の幸せかは私にもよくわからないけど、幸せになりたい。



何故か涙が頬を伝う。


「どうしたの霧野ちゃん」
「ご、ごめん、なんでだろう…」


いきなり塞がれた左手。


左を向けば、蓮が目を合わせずただ私の左手を繋いでいる。


「これぐらいいいだろ」


手から伝わる蓮の手の温かさは固まっていた私の心を柔らかくして、涙は止まっていた。
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