「みえない僕と、きこえない君と」
弁当をテーブルに置き、懐から携帯を取り出す。

折り畳み式の携帯を開けば、まだ、彼女から

メールは届いていない。

お風呂に入っているのかな。

それとも、家族と食事中?

僕はそわそわしながらシャワーを浴び、何度も

携帯を確認しながら、買ってきた日替わり弁当

を食べた。そして、発泡酒を飲み干す。

なんとはなしにテレビをつけて観るが、携帯が

気になって内容が頭に入ってこない。

僕はため息をつきながら、また、携帯を見た。



------時刻は10時22分。



もしかして、彼女は明日の夜、メールすると

言ったのだろうか?

もしかして、僕の見間違い?

僕は携帯を持ったまま立ち上がり、うろうろと

テーブルの周りを歩き出した。

このまま待っていてメールが来なかったら、

どうしようか。

僕からメールした方がいいのだろうか。

あまり遅くなってしまうと、余計にメール

し辛くなってしまうし、どうしよう……。

うーん、と呻りながら、腕を組みながら、

テーブルの周りを回っていた、その時だった。

ピロリロ♪と、メールの着信音が鳴って、

僕は思いきりテーブルの角に足の小指を

ぶつけてしまった。

「いっ、っ-----!!!!」

激痛に涙を浮かべながらも、慌ててメール

を開く。



-----件名は(こんばんは、市原です)



間違いない。彼女からだ。

僕は本文を開き、活字に目を走らせた。

メールには、ご飯誘ってくれてありがとう、

という一文と、僕の都合を伺う旨が記して

あって、最後に(わたしはいつでも大丈夫です。

楽しみにしています)という言葉が添えてあった。

僕は、100字にも満たない文章を何度も読み返し、

じっくり考えてから返事を書き始めた。




羽柴です。メールありがとう。

僕も、いつでも大丈夫だけど、休日の方が

嬉しいかも知れません。ゆっくりお話しできるし、

ご飯だけじゃなくて、どこか行きたいところが

あれば、一緒に行けるし。リクエストがあれば、

何でも言ってください。




------送信。



悩んだわりに、気の利いた文章はひとつも書け

なかった。

というより、僕の方が彼女を誘ったのに、何の

プランもないままに、リクエストがあれば、などと、

相手に任せてしまったのは失敗かも知れない。

僕はメールを送ってしまってからそう気付き、

まだ濡れた髪をくしゃくしゃと掻きむしりながら、

彼女の返事を待った。

しばらくして、ピロリロ♪と携帯が鳴る。 

さっきよりも、どきどきしながら携帯を開く。

中学のころ貰ったラブレターを開けた時よりも、

どきどきしていた。

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