「みえない僕と、きこえない君と」
コッペパンのお店に着くと、すでに、5~6組

の客が列を作っていた。

どうやら、結構人気があるようだ。

他にも、たい焼きのお店と、お握り屋さんの移動

販売車が来ているけれど、このお店の列が一番長い。

パタパタと、風に靡くのぼりを見れば、

「国産小麦100%のふわふわコッペ」と書いてある。

ちょっと離れていてよく見えないが、貼りだされて

いるメニューには30種類くらいのコッペパンが

並んでいた。

(美味しそうだね)

二人で列に並びながら、相変わらず拙い指文字で言った。

彼女が頷く。そして、鞄から携帯を取り出すと、

相変わらず見事な早打ちで、文字を打って見せた。

(このお店の本店が高校の近くにあって、学校

帰りに友達とよく食べたんです。ふわふわしてて

軽いから、2個は食べられますよ)

へぇ~、そうなんだ。僕は彼女の説明に頷きながら、

くぅ、とまた鳴ったお腹を擦った。彼女が2つ

食べられるなら、僕はきっと5つはいけるだろう。

(おススメは?)

そう尋ねると、彼女は人差し指を顎にあて、少し

考えた。カタカタと、文字を打ち、僕に見せる。

(惣菜系なら風花牧場のハムチーズ、甘い系なら

シンプルな、きな粉あげパンも美味しいですよ。

黒蜜きな粉バージョンも美味しいですけど)

どうやら、彼女はきな粉系がお好みらしい。

列に並びながらそんな会話をしていると、やっと

順番が来たので、僕はおススメの風花牧場のハム

チーズと、きな粉あげパンの他に、タンドリー

チキンサンドを2つと、シンプルなタマゴサラダ

を注文した。

そして、彼女の白身魚のタルタルと黒蜜きな粉の

分も合わせて会計をする。

隣で財布を手にしながら、彼女はあわあわして

いたが、僕は笑って(ごちそうさせて)と、

指文字で伝えたのだった。




沢山のコッペパンが入ったビニール袋を下げ、

ベンチを探しながら、途中見つけた自販機でアイス

コーヒーとほうじ茶を買った。芝生広場を一望で

きるベンチを見つけ、腰かける。

日陰となる木々は側になく、陽射しは少し強く

感じたけれど、サングラスをしているし、

適度な日光浴も必要だろう。

僕はさっそくビニール袋からタンドリーチキン

サンドを取り出すと、大きな口を開けてかぶり

ついた。そして、彼女を向いた。

(美味しい!!)

片手にコッペパンを持ったまま、右手で2回、

頬を叩いて見せる。

ふわっふわのコッペパンに、食欲をそそるスパイ

シーなカレー味のチキンがゴロゴロ入っていて、

軽いのにボリュームがある。しゃきしゃきのレタ

スもやわらかなパンにマッチしていて、絶品だった。

彼女は、あっという間に最後の一口を口に放り込んだ

僕を見て、嬉しそうに笑った。
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