「みえない僕と、きこえない君と」
今日は楽しかったです。
パーカー、ありがとうございました。
来週、洗って返しますね。
という、何の変哲もない文章だけで……
そのメールに対し僕が送った返事もまた、
似たようなものだった。
そして週が明け、今朝もフロアの前を通り
ながら彼女は手を振ってくれたけれど、
それはいつものことで、変わった様子は何も
ないまま、現在に至る。
僕は誰もいない廊下で、ため息をついた。
いまは昼の休憩時間を終え、午後の指導が
始まっている。
だから、利用者さんたちは教室に入っている
し、ここは男子トイレの脇なので、職員が
来なければいまの時間はほとんど人が
通らない。
僕はまた、こつん、と壁に頭を打ち付けた。
失敗した。つい、ムードに流されて、
付き合うより先に、手を出してしまった。
-----けれど、彼女は拒まなかったのだ。
目を閉じて、僕のキスを待ってくれた。
もしかして、もう付き合っているという
体でいいのだろうか?一瞬、そんなことを
考えて、僕はいや、と頭を振った。
ちゃんと「好きだ」と、言おう。
そして、あらためて、「付き合って欲しい」と、
彼女に伝えよう。本当に、彼女のことを
大切に想っているんだから……
男としてケジメを付けないと。
そう、心に決め、ひとり頷いた時だった。
「何やってんの?こんなトコで」
突然、耳元で声がして、僕は「ひっ」と、
変な声を上げた。
振り返って声の主を見る。
分厚いファイルを手に、町田さんが怪訝な
顔をして立っている。
「突然、びっくりするじゃないですか!」
僕は、変な声のトーンのままで言った。
「突然も何も、こんなトコで自傷行為に
走ってるから、心配で声かけたんだけど。
どしたの、何かやらかしたの?」
いつから僕の奇行を見ていたのか……
町田さんが肩を竦めて顔を覗く。
僕は取り繕うようにネクタイを締め
なおしながら、歩き出した。
「別に、何もやらかしてないですよ。
仕事では……ですけど」
皆まで言わずとも、察することが出来る
ように、それとなく匂わす。
すると、彼は「ははーん」と目を細め、
僕の肩に腕をのせた。
「なるほどね。いま、羽柴クンが悩むこと
と言えば、あの子のことくらいだもんな。
男は色々あるよな。わかる、わかる」
何をどう解釈したのか、したり顔でそう言う
と、不意に「おっ」と声を出し、僕ごと立ち
止まった。そして、廊下の掲示板を指差した。
そこには、事業所からのお知らせやら、
新聞の切り抜きやら、タウンニュースやら、
色んな物が貼ってある。
その中に紛れ、端の方に秋祭りのチラシが
貼ってあった。
パーカー、ありがとうございました。
来週、洗って返しますね。
という、何の変哲もない文章だけで……
そのメールに対し僕が送った返事もまた、
似たようなものだった。
そして週が明け、今朝もフロアの前を通り
ながら彼女は手を振ってくれたけれど、
それはいつものことで、変わった様子は何も
ないまま、現在に至る。
僕は誰もいない廊下で、ため息をついた。
いまは昼の休憩時間を終え、午後の指導が
始まっている。
だから、利用者さんたちは教室に入っている
し、ここは男子トイレの脇なので、職員が
来なければいまの時間はほとんど人が
通らない。
僕はまた、こつん、と壁に頭を打ち付けた。
失敗した。つい、ムードに流されて、
付き合うより先に、手を出してしまった。
-----けれど、彼女は拒まなかったのだ。
目を閉じて、僕のキスを待ってくれた。
もしかして、もう付き合っているという
体でいいのだろうか?一瞬、そんなことを
考えて、僕はいや、と頭を振った。
ちゃんと「好きだ」と、言おう。
そして、あらためて、「付き合って欲しい」と、
彼女に伝えよう。本当に、彼女のことを
大切に想っているんだから……
男としてケジメを付けないと。
そう、心に決め、ひとり頷いた時だった。
「何やってんの?こんなトコで」
突然、耳元で声がして、僕は「ひっ」と、
変な声を上げた。
振り返って声の主を見る。
分厚いファイルを手に、町田さんが怪訝な
顔をして立っている。
「突然、びっくりするじゃないですか!」
僕は、変な声のトーンのままで言った。
「突然も何も、こんなトコで自傷行為に
走ってるから、心配で声かけたんだけど。
どしたの、何かやらかしたの?」
いつから僕の奇行を見ていたのか……
町田さんが肩を竦めて顔を覗く。
僕は取り繕うようにネクタイを締め
なおしながら、歩き出した。
「別に、何もやらかしてないですよ。
仕事では……ですけど」
皆まで言わずとも、察することが出来る
ように、それとなく匂わす。
すると、彼は「ははーん」と目を細め、
僕の肩に腕をのせた。
「なるほどね。いま、羽柴クンが悩むこと
と言えば、あの子のことくらいだもんな。
男は色々あるよな。わかる、わかる」
何をどう解釈したのか、したり顔でそう言う
と、不意に「おっ」と声を出し、僕ごと立ち
止まった。そして、廊下の掲示板を指差した。
そこには、事業所からのお知らせやら、
新聞の切り抜きやら、タウンニュースやら、
色んな物が貼ってある。
その中に紛れ、端の方に秋祭りのチラシが
貼ってあった。