「みえない僕と、きこえない君と」
普段なら暮色に包まれているであろう
境内は、存外に明るかった。
赤を基調とした拝殿から伸びる参道には、
いくつもの白いテントが並び、眩いほどの
光が溢れている。
子供たちが描いたのだろうか?
神社の鳥居まで続く石造りの階段は両側に
キャンドルが並べられ、丸いガラスの外側
には可愛らしい絵が描かれていた。
町内会の祭りだけあって、手作り感が温かい。
僕は人波から庇うように彼女を側へ寄せる
と、境内をぐるりと見渡した。
狭いと思っていた境内は意外に広く、祭儀を
行う幣殿の前にもいくつかテントが
立っている。目を凝らして手書きの看板を
見れば、そこには祭りの定番とも言える
焼きそばやタコ焼き、フランクフルトに
ハッシュドポテト、その他にも秋祭りらしく
おでんやビールという看板も見えた。
僕は携帯を取り出し、文字を打った。
(どこから回ろうか?色々あるけど、
ソースせんべいもベビーカステラもない
みたいだね)
残念そうに苦笑いをすると、彼女は小さく
首を横に振る。
(でも、どのお店も美味しそう。色々買って、
二人で半分こしませんか?)
そう、提案した彼女に大きく頷いた。
実は僕も同じことを考えていたのだ。
一人では無理だけど、二人で分け合えば
全制覇もいけそうな気がする。
さっそく、僕たちは一番近い店から回り、
まずは焼きそばとフランクフルト、それから
熱々のおでんと缶ビールを買った。
そして、拝殿の石段に腰かける。
いくつかある石造りのベンチはすでに
子供たちが占領しているし、今日くらい
は神様も大目にみてくれるだろう。
僕は持っていた、フランクフルトを彼女に
渡した。半分ずつかじって食べるなら、
彼女が先に食べた方がいい。
(ありがとう)
唇だけでそう言って、彼女がフランクフルト
にかじりつく。
ケチャップは多め、マスタードは少なめ。
こんがりと焼けたフランクフルトに小さな
歯型を付けると、彼女は美味しそうに笑って
頷いた。僕はその笑顔を横目で見ながら、
缶ビールのプルトップを開けた。
プシュ、と小気味よい音を聞くだけで何だか
嬉しくなる。
ビールは1本ずつ買ったので、僕は一気に
半分くらいまで喉に流し込んだ。
「ぷはぁ……うまっ!」
暑い夏に飲むビールも最高だけれど、秋の
涼しい夜空の下で飲むビールも格別だった。
ピリピリと爽快な刺激が喉の奥を通過して、
ため息が出る。
その様子を隣で見ていた彼女が、可笑しそう
に眼を細めながら食べかけのフランクフルト
を差し出した。
半分にまで減ったフランクフルトは、串の先端
が覗いている。
境内は、存外に明るかった。
赤を基調とした拝殿から伸びる参道には、
いくつもの白いテントが並び、眩いほどの
光が溢れている。
子供たちが描いたのだろうか?
神社の鳥居まで続く石造りの階段は両側に
キャンドルが並べられ、丸いガラスの外側
には可愛らしい絵が描かれていた。
町内会の祭りだけあって、手作り感が温かい。
僕は人波から庇うように彼女を側へ寄せる
と、境内をぐるりと見渡した。
狭いと思っていた境内は意外に広く、祭儀を
行う幣殿の前にもいくつかテントが
立っている。目を凝らして手書きの看板を
見れば、そこには祭りの定番とも言える
焼きそばやタコ焼き、フランクフルトに
ハッシュドポテト、その他にも秋祭りらしく
おでんやビールという看板も見えた。
僕は携帯を取り出し、文字を打った。
(どこから回ろうか?色々あるけど、
ソースせんべいもベビーカステラもない
みたいだね)
残念そうに苦笑いをすると、彼女は小さく
首を横に振る。
(でも、どのお店も美味しそう。色々買って、
二人で半分こしませんか?)
そう、提案した彼女に大きく頷いた。
実は僕も同じことを考えていたのだ。
一人では無理だけど、二人で分け合えば
全制覇もいけそうな気がする。
さっそく、僕たちは一番近い店から回り、
まずは焼きそばとフランクフルト、それから
熱々のおでんと缶ビールを買った。
そして、拝殿の石段に腰かける。
いくつかある石造りのベンチはすでに
子供たちが占領しているし、今日くらい
は神様も大目にみてくれるだろう。
僕は持っていた、フランクフルトを彼女に
渡した。半分ずつかじって食べるなら、
彼女が先に食べた方がいい。
(ありがとう)
唇だけでそう言って、彼女がフランクフルト
にかじりつく。
ケチャップは多め、マスタードは少なめ。
こんがりと焼けたフランクフルトに小さな
歯型を付けると、彼女は美味しそうに笑って
頷いた。僕はその笑顔を横目で見ながら、
缶ビールのプルトップを開けた。
プシュ、と小気味よい音を聞くだけで何だか
嬉しくなる。
ビールは1本ずつ買ったので、僕は一気に
半分くらいまで喉に流し込んだ。
「ぷはぁ……うまっ!」
暑い夏に飲むビールも最高だけれど、秋の
涼しい夜空の下で飲むビールも格別だった。
ピリピリと爽快な刺激が喉の奥を通過して、
ため息が出る。
その様子を隣で見ていた彼女が、可笑しそう
に眼を細めながら食べかけのフランクフルト
を差し出した。
半分にまで減ったフランクフルトは、串の先端
が覗いている。