「みえない僕と、きこえない君と」
(行こうか)
そう言って、タコ焼きのテントに向かい始めた
僕の手を、突然、すっ、と絡めるようにして
彼女が握った。びっくりして彼女を見る。
僕を見上げる彼女の頬はほのかに染まっていて、
けれど、何かを決意したような力強い眼差しが
まっすぐ僕を捉えていた。
(転ばないように)
じっと見つめていた僕にそう言うと、彼女は
手を引いて歩き始めた。
手を引かれるまま、僕も歩き始める。
強く握れば折れてしまいそうなほど華奢な
手が、護るように僕の骨ばった手を握っている。
傍から見れば、たぶん、僕たちは仲睦まじい
恋人たちの姿に見えるだろう。
けれど、本当はそうじゃないから、僕の手を
握る彼女が愛おしくて堪らない。
僕は彼女の隣に並び、肘から下をしっかりと
絡めると、人波を掻き分けテントを目指した。
「大人気だな」
タコ焼きを食べ終えた僕たちは、花火までの
時間をつぶそうと、子供たちが群がる“くじ引き”
の列に並んでいた。
町内会の祭りは6時半からだが、隣町の花火が
上がるのは8時からなのだ。
開始までまだ30分近くある。
さて、どうしようか?と、悩んでいた時、僕たち
の前を大きな水鉄砲を抱えた男の子が走り抜けた。
二人で顔を見合わせ、その子が来た方を見やる。
幣殿の目の前、境内の一番端のテントに子供
たちが群がっている。
おもちゃのくじ引きだ。僕はそのテントを見つけ
た瞬間、童心に返り、列の最後尾に並んだの
だった。
そして、ようやく順番が来る。200円を払い、
紙の箱に手を突っ込むと、沢山の紙切れの中
から1枚を選んだ。点線に沿って紙をめくる。
どんな数字が出るか、どきどきする。
「はい、126番」
紙切れの番号を覗き込んだおばさんが、抑揚の
ない声で言った。
126番。数字が大きければ大きいほど、
ハズレだ。案の定、テーブルの下から取り出され
たのは、カメの形をした小さな水鉄砲だった。
僕たちは、ちょこんと手の平にのせられた
カメを眺めながら、列を外れた。
ソフトビニール製の丸っこい甲羅をしたカメが、
にこりと笑って小さな目を僕らに向けている。
(ハズレちゃった)
はは、と笑いながらそう言うと、彼女は首を
振って手話で言った。
(可愛い)
にこりと白い歯を見せながら、手の平のカメを
突く。1等を当て、誇らしげに友達に見せた
あのころとはずいぶん違ったが、彼女が喜んで
くれたので、いまの僕にとってはこのカメが
1等なのかも知れない。
僕は小さなカメを彼女の手にのせると、腕時計
を見た。
そろそろ時間だ。
僕は彼女の手を握ると、町田さんが教えてくれた
場所へと足を向けた。
そう言って、タコ焼きのテントに向かい始めた
僕の手を、突然、すっ、と絡めるようにして
彼女が握った。びっくりして彼女を見る。
僕を見上げる彼女の頬はほのかに染まっていて、
けれど、何かを決意したような力強い眼差しが
まっすぐ僕を捉えていた。
(転ばないように)
じっと見つめていた僕にそう言うと、彼女は
手を引いて歩き始めた。
手を引かれるまま、僕も歩き始める。
強く握れば折れてしまいそうなほど華奢な
手が、護るように僕の骨ばった手を握っている。
傍から見れば、たぶん、僕たちは仲睦まじい
恋人たちの姿に見えるだろう。
けれど、本当はそうじゃないから、僕の手を
握る彼女が愛おしくて堪らない。
僕は彼女の隣に並び、肘から下をしっかりと
絡めると、人波を掻き分けテントを目指した。
「大人気だな」
タコ焼きを食べ終えた僕たちは、花火までの
時間をつぶそうと、子供たちが群がる“くじ引き”
の列に並んでいた。
町内会の祭りは6時半からだが、隣町の花火が
上がるのは8時からなのだ。
開始までまだ30分近くある。
さて、どうしようか?と、悩んでいた時、僕たち
の前を大きな水鉄砲を抱えた男の子が走り抜けた。
二人で顔を見合わせ、その子が来た方を見やる。
幣殿の目の前、境内の一番端のテントに子供
たちが群がっている。
おもちゃのくじ引きだ。僕はそのテントを見つけ
た瞬間、童心に返り、列の最後尾に並んだの
だった。
そして、ようやく順番が来る。200円を払い、
紙の箱に手を突っ込むと、沢山の紙切れの中
から1枚を選んだ。点線に沿って紙をめくる。
どんな数字が出るか、どきどきする。
「はい、126番」
紙切れの番号を覗き込んだおばさんが、抑揚の
ない声で言った。
126番。数字が大きければ大きいほど、
ハズレだ。案の定、テーブルの下から取り出され
たのは、カメの形をした小さな水鉄砲だった。
僕たちは、ちょこんと手の平にのせられた
カメを眺めながら、列を外れた。
ソフトビニール製の丸っこい甲羅をしたカメが、
にこりと笑って小さな目を僕らに向けている。
(ハズレちゃった)
はは、と笑いながらそう言うと、彼女は首を
振って手話で言った。
(可愛い)
にこりと白い歯を見せながら、手の平のカメを
突く。1等を当て、誇らしげに友達に見せた
あのころとはずいぶん違ったが、彼女が喜んで
くれたので、いまの僕にとってはこのカメが
1等なのかも知れない。
僕は小さなカメを彼女の手にのせると、腕時計
を見た。
そろそろ時間だ。
僕は彼女の手を握ると、町田さんが教えてくれた
場所へと足を向けた。