「みえない僕と、きこえない君と」
鼎談の席につくなり、(※三人が卓を囲んで
話し合うこと)
「俺が車出すから、どこでも行きたいところ
言って!」
と、張り切ってそう言った町田さんに対し、
少し考えてから弥凪がリクエストした場所は、
“海”だった。
意外なリクエストに、僕と町田さんは顔を
見合わせる。
夏ならば、海水浴やらバーベキューやら、
愉しみ方は色々あるだろうが………
11月ともなると、砂浜散歩???
どうにも、四人で肩を並べ、歩いている姿が
頭に浮かばない。
ダメかなぁ?と言いたげに、弥凪は僕ら
二人を交互に上目遣いで見やりながら、
拗ねたようにビアグラスの水滴を指で
なぞっている。
そんな弥凪を見ていた町田さんが、「よし!」
と、手を叩いた。そして、僕が用意した筆談用
のノートに、さらさらと文字を綴り始めた。
”じゃあさ、海浜公園に行くってのはどう?
あそこなら、海を見ながら砂浜歩いたり、
観覧車に乗ったり、お腹が空けばレストラン
も沢山ある。ここから車で二時間かからないし、
ドライブがてらちょうどいいと思うな。”
ミミズの這うようなその字に目を走らせた
僕たちは、顔を見合わせる。
僕が免許を持っていないので、行きも帰り
も彼に運転を任せてしまうのは申し訳ないが、
これは名案だった。
「いいですね、それ。あそこなら小さな
水族館もあるから一日時間が潰せそうだし、
咲さんも喜びそうだし。でも、いいんですか?
僕、運転代われないから、町田さん疲れますよ?」
「そんなの気にするなって。俺、ドライブ好きだ
からさ。可愛い女の子が助手席にいるなら、
何時間でも運転出来ちゃうし」
裂きイカを噛みながら、シシ、と笑い、ポンと
僕の肩に手を乗せる。
その様子から、行き先が海浜公園に決まった
ことを察した弥凪は、嬉しそうに咲さんに
メールをしたのだった。
それからも、僕たちはデートの日をいつにする
か、とか、咲ちゃんはどんな感じの子で、
どんなタイプの人が好みか、とか、町田さんが
買って来たビールを飲みながら、東の空が
白んでくるころまで語り明かした。
事業所で何度も顔を合わせているとは言え、
まるで、ずっと前から友人であるかのように
弥凪が町田さんと笑い合えたのは、きっと、
彼の人柄に依るところが大きいのだろう。
手話は出来なくとも、筆談と口話とで、
彼はしっかり弥凪の言葉を理解していたし、
言葉を拾いきれなかった弥凪を置いてけぼり
にして、彼が話を進めることもなかった。
僕は笑い合う二人の顔を交互に見、町田さん
がWデートを計画してくれたこと、僕の部屋
に飛び入りで来てくれたことを、いまさら
ながら心の中で感謝したのだった。
話し合うこと)
「俺が車出すから、どこでも行きたいところ
言って!」
と、張り切ってそう言った町田さんに対し、
少し考えてから弥凪がリクエストした場所は、
“海”だった。
意外なリクエストに、僕と町田さんは顔を
見合わせる。
夏ならば、海水浴やらバーベキューやら、
愉しみ方は色々あるだろうが………
11月ともなると、砂浜散歩???
どうにも、四人で肩を並べ、歩いている姿が
頭に浮かばない。
ダメかなぁ?と言いたげに、弥凪は僕ら
二人を交互に上目遣いで見やりながら、
拗ねたようにビアグラスの水滴を指で
なぞっている。
そんな弥凪を見ていた町田さんが、「よし!」
と、手を叩いた。そして、僕が用意した筆談用
のノートに、さらさらと文字を綴り始めた。
”じゃあさ、海浜公園に行くってのはどう?
あそこなら、海を見ながら砂浜歩いたり、
観覧車に乗ったり、お腹が空けばレストラン
も沢山ある。ここから車で二時間かからないし、
ドライブがてらちょうどいいと思うな。”
ミミズの這うようなその字に目を走らせた
僕たちは、顔を見合わせる。
僕が免許を持っていないので、行きも帰り
も彼に運転を任せてしまうのは申し訳ないが、
これは名案だった。
「いいですね、それ。あそこなら小さな
水族館もあるから一日時間が潰せそうだし、
咲さんも喜びそうだし。でも、いいんですか?
僕、運転代われないから、町田さん疲れますよ?」
「そんなの気にするなって。俺、ドライブ好きだ
からさ。可愛い女の子が助手席にいるなら、
何時間でも運転出来ちゃうし」
裂きイカを噛みながら、シシ、と笑い、ポンと
僕の肩に手を乗せる。
その様子から、行き先が海浜公園に決まった
ことを察した弥凪は、嬉しそうに咲さんに
メールをしたのだった。
それからも、僕たちはデートの日をいつにする
か、とか、咲ちゃんはどんな感じの子で、
どんなタイプの人が好みか、とか、町田さんが
買って来たビールを飲みながら、東の空が
白んでくるころまで語り明かした。
事業所で何度も顔を合わせているとは言え、
まるで、ずっと前から友人であるかのように
弥凪が町田さんと笑い合えたのは、きっと、
彼の人柄に依るところが大きいのだろう。
手話は出来なくとも、筆談と口話とで、
彼はしっかり弥凪の言葉を理解していたし、
言葉を拾いきれなかった弥凪を置いてけぼり
にして、彼が話を進めることもなかった。
僕は笑い合う二人の顔を交互に見、町田さん
がWデートを計画してくれたこと、僕の部屋
に飛び入りで来てくれたことを、いまさら
ながら心の中で感謝したのだった。