「みえない僕と、きこえない君と」
「広いなぁ~!!」

真っ青な空の下に広がる、広大な敷地を見回し

ながら、僕は思わず感嘆の声を上げた。

海に面したこの県立海浜公園は、緑豊かでとても

開放的な空間だった。

入り口には大きな船のモニュメントがあり、

そこを抜けると、芝生広場が広がっている。

その他にも、水族館やオートキャンプ場、野外

ステージ、バラ園、レストランや売店、海洋科

学館なんてものまである。潮の干満差(かんまんさ)

利用して河口から取水した人工湖もあって、

サイクルボートやローボートを漕ぐことも

出来るようだった。

そして、園の入り口から海の通路を抜けた先は、

海水浴場へと繋がっている。

「今度来るときは泊りがけで来るといいかもな。

ここ、キャンプ場の隣に、コテージもあるからさ」

総合案内版の前で、僕と肩を並べた町田さんが

にぃ、と笑う。

「いいですね、それ。僕、バーベキューって

やったことがないんです。海水浴シーズンじゃ

なくても、ここなら色々楽しめそうだし」

僕はいつか実現するかも知れない、楽しい

未来を想像しながら、両手を腰にあて、

にんまりと笑った。





「お待たせ!」

そんなことを話していると、お手洗いに行って

いた二人が戻って来た。

さて、どうしようか?と、さっそく四人で

話し合いが始まる。

(みんなお腹空いているだろうし、町田さん

レジャーシート持って来てくれてるし、売店で

ご飯買って浜辺で食べませんか?)

そう、手話で言った弥凪の言葉を、すかさず

咲さんが通訳してくれる。

「やっぱそうだよな。せっかく海に来たんだ

もんな」

弥凪の提案に町田さんが即答したので、

僕たちは売店に向かい、各々、食べたいものを

沢山買い込んで、砂浜へと向かった。





海の通路を抜け、砂浜に下りると、シーズン

オフとあって人影は疎らだった。

けれど、日差しは適度に暖かいし、風もやわらか

だし、海水浴客がいないぶん砂浜はとても

キレイだ。胸を満たす潮香も心地よく、僕たち

はしばらく肩を並べ、四人で砂浜を歩いた。

やがて、サクサク、と砂を踏みしめながら

歩いていると、海の落とし物のように波打ち際

に転がっている、細い流木が目に留まった。

「あの辺りにしようか?目印になりそうだし」

くるくると丸められた大判のレジャーシートを

肩から()げていた町田さんが、流木を

指差しながら言う。

するとすぐに、「そうしましょう!」と、咲さん

の元気な声が返ってきて、彼女は弥凪の手を

取り、そこまで駆けていったのだった。

防水加工の施された大判のレジャーシートを

広げると、僕たちは輪になるようにそこへ座り、

買い込んだ食料を真ん中に並べた。

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