「みえない僕と、きこえない君と」
「おぅ、お帰り。ずいぶん早かったな」

空高くに照っていた太陽が水平線へ近づく

ころになって、ようやく戻って来た僕たち

に、町田さんは開口一番に、こう言った。

「早かったな、って、もう3時過ぎてますよ。

もしかして僕たち、戻って来ない方が良かっ

たですか?もう一周、してきましょうか」

腕時計と海とを交互に見ながら、肩を竦める。

心なしか、レジャーシートに座っている二人

の距離が縮まっているように見えるけれど……

僕たちの思惑通り、二人の心の距離も縮まっ

たのなら、砂浜の端っこまで裸足で歩いた

疲れも吹っ飛ぶというのもだ。

「冗談だって。ほら、二人とも、これで足吹きな

さい。女の子が、足冷やしちゃダメでしょー」

まるで母親のような口調でそう言って、町田さん

が鞄から取り出したタオルをふわりと投げる。

本当にレジャー慣れしているなぁ、と感心しつつ、

それを受け取ると、僕は弥凪の細い足を拭った。

そのやり取りをにこにこ顔で見守っていた咲さん

が、不意に「よいしょ」と、立ち上がる。

そして、パンパンと尻を叩きながら僕らを向いた。

「ねぇ、せっかくだから他のところ回ろうよ。

観覧車とかさ。きっと、夕陽が見えてキレイ

だよ」

その言葉に、海岸の向こうに(そび)え立つ

大観覧車を見やる。沈みかけた陽の光が窓に

反射して、キラキラと輝いている。咲さんの

言う通り、いまから観覧車に向かえば、きっと、

夕陽が沈むころに、水平線を眺めることが出来

るだろう。

「いいですね、行きましょう。観覧車のてっぺん

から海を見渡したら、きっと感動しますよ」

たとえ、僕の見える世界が狭くとも、広大な

海原を上からみた光景は素晴らしいに違いない。

そして、そんな素晴らしい光景も、今日見なけれ

ば一年後はさらに欠けてしまうのだ。

僕は逸るような気持ちで、みんなの顔を見た。

「よし、行くか!」

パン、と両手で膝を叩いてそう言うと、町田さん

も立ち上がった。僕たちは荷物を片付け、四人で

レジャーシートを畳むと、大観覧車を目指して

砂浜を歩き始めた。








「うわぁ、空がピンクに染まってる!」

観覧車に向かい、順番を待つ行列の最後尾に

並んだ僕らは、タイミングよく頂上らへんから

サンセットを眺めることが出来た。

感嘆のため息を漏らしながらそう言った咲さん

に、声もなくみんなが頷く。

順番を待っている間に、

「運が良ければ、ビーナスベルトが見られる

かもな」

と、町田さんが話していたけれど……

その言葉通り、いま、僕らはアッシュピンクに

染まった、幻想的な空を目の当たりにしていた。

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