8月25日(前編)
「あ、はいこれ。落とし物」

そう言って差し出されたのは、まだ傷ひとつない生徒手帳。

何も言わずに受け取ると「もう少し笑えば?」と少し高いところから声が降ってきた。


その人はそれだけ言うと、踵を返して校舎のほうに歩いて行く。

わたしはその背中を長い前髪の隙間から見つめていた。


ふと渡された生徒手帳に視線を落とし1ページ目を開く。

そこには真顔で写る自分の顔写真と名前、生年月日、血液型、そして住所が載っていた。


きっと、さっきの人はこの写真のことを言っていたんだとすぐに理解できたし、わたしの名前を呼んだのも、この1ページから情報を得たんだろう。


生徒手帳から顔を上げ、もう一度さっきの人の背中を探すけど、もうどこにも見つからなかった。
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