【完結】わたしたち、離婚を前提の期間限定夫婦になります。


 爽太さんはそれだけ呟いて、また歩き出した。

「っ……爽太さん、わたし……!」
 
 爽太さんの背中に、そう思わず口を開いてしまった。

「紅音……?」

 不思議そうにわたしを見る爽太さん。少しだけ、困惑しているようにも見えた。

「爽太さん、わたしっ……」
  
 自分でも今、爽太さんに何を言おうとしているのか分かる。
 だってわたしは今、言ってはいけないことを言おうとしている。

「紅音……」

「爽太さんのことが、すっ……」

 その言葉の続きは、言えなかった。だって爽太さんの唇が、わたしの唇を塞いでいるから。
 ちょっとだけ乱暴に塞がれたその唇に、わたしは思わず目を閉じて爽太さんの手を握りしめた。

 さっきわたしは、爽太さんのことを【好き】そう言おうとした。
 無意識だったのかは分からない。だけどずっと前から溜めていたその気持ちが溢れて、こぼれてしまいそうだった。

「……紅音、それ以上言うな」

 爽太さんからそう言われたのに、わたしは「爽太さん、好きです……」と溢れる想いを告げてしまった。
 もう後戻りは、出来ない。……そう思った。
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