鬼は妻を狂おしく愛す
「今、会ってあげるよ?
美来の友達さん?」

美来以外が、声をする方を向く。
そのみんなの姿に、美来も向いた。

そこには、雅空がいた。
【美来、おいで】
雅空の手話に、美来が嬉しそうに駆け出す。

その姿だけで、美来が自分の意思で雅空と結婚したということがわかる。

美来を抱き締めた雅空が、亜希達を見据えて言った。
「これで、わかったよな?
俺が脅したんじゃないってことが」
「はい」
「大丈夫だよ」
「え?」
「そんな心配そうな顔しなくても、美来を傷つけたりしない。美来“だけ”は大切だから、幸せにしかしない!
その代わり、もう…美来を手放すなんて無理だよ」

その雅空の言葉には、重要な意味がある。
美来“だけ”ということは、美来“以外”はどうでもいいということ。
今は美来がいるので穏やかな顔だが、雅空の目の中はどこまでも続く闇のように真っ黒だった。

「わかりました」
美来が雅空を見上げて服を引っ張った。
「ん?」
【友達、紹介したいから離して?】
「うん」
美来が亜希達を、手話で紹介する。

そして最後に謙吾を紹介しようとした手を、素早く掴んだ雅空。
不思議そうに雅空を見上げる、美来。
「美来、俺の目にはこの四人しか友達いないように見えるんだけど、あと誰を紹介しようとしてるの?」
「………」
なんとなく、謙吾のことを言えなくなってしまった美来。
そのまま手を下ろした。

「男はいらないよ。美来には俺がいればいいでしょ?」
何の感情のないような目。
美来は初めて、雅空が怖いと思っていた。
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