鬼は妻を狂おしく愛す
そのまた後日、雅空が妖子の店に現れた。

「ママ~雅空様がお見えになりました」
ボーイから声をかけられ、入口に足早に向かう。
「雅空様、いらっしゃいませ」
「ん。変わりない?」
「あの実は、少し相談にのっていただきたくて……
一杯だけ、お付き合いいただけませんか?」

妖子はある計画をもって、雅空を引き留めた。

「わかった」
VIP席に誘導する。

「で?何だ?相談。
早く話せ!!」
「はい」
そう言ってお酒を作り、雅空に渡そうとしてわざとに手を滑らせた。

雅空のジャケットにかかる。
「も、申し訳ありません!!雅空様、ジャケット脱いで下さい!!」
雅空はため息をつきながら、ジャケットを脱いだ。

「とりあえず、ジャケットはお預かりしてクリーニングに出しますね」
「いい!拭きとるだけで構わない」
「そうですか?
では、クリーニング代をお渡しします」

妖子は予想通りの雅空の反応に、心の中でニヤリと笑った。
雅空のことだ。
いくらクリーニングするからと言っても、私物を渡すわけがない。
警戒心の強い雅空ならではだ。

妖子は、濡れている所を拭きながら少しだけ自分の香水をつけ、ポケットにある物を忍ばせた。

「ほんとに、申し訳ありませんでした!!」
後は、最近チンピラ風の男達に店が狙われているようだと嘘を並べて話し、雅空はなるべく頻繁に足を運ぶと約束して店を後にした。

「さぁ…どうなるかしら……」
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