鬼は妻を狂おしく愛す
次の日、公園に向かうと美来が既に来ていた。
いつものように本を読んでいて、まだ雅空に気づかない。
雅空はゆっくり近づき、美来の隣に腰かけた。

今まであんなに近づけなかったのに、昨日の出来事で受け入れてもらえたような気がして、何の不安もなく身体が動いたのだ。

雅空の気配に少しビクッと震えて、雅空を見る美来。

フワッと笑って、横に置いていた傘を差し出した。
ペコッと頭を下げる美来。

その可愛らしい姿に、雅空は笑みが溢れた。
傘を受け取り、
【少し、話をしない?】
とスマホ画面を見せた。
【でも、ご迷惑じゃ…】
【ううん。君と話がしたい】
その画面の言葉に、美来は目を見開いて微笑んだ。

【初めてです】
「え?」
思わず声が出た雅空。
【私と話がしたいなんて、言われたことです。
私は耳が聞こえないので、みんな嫌がるんです。
こんな風にいちいち打ったり、紙に書いたりしないといけないから。
とっても嬉しいです!
貴方が良ければ、私は喜んで話がしたいです】

【そう。
俺で良ければ、いつでも何時間でも相手になるよ!】
その言葉に、嬉しそうに微笑んだ美来だった。

【俺は、鬼頭 雅空っていうんだ。
君は?】
【天童 美来です】
【美来。可愛い名前だね!いつもここで本を読んでるよね?
実はずっと前から見かけてたんだ】
【すぐそこの工場で働いてるんです。
そこならお話しなくても、もくもくと作業ができるから。鬼頭さんは、どんなお仕事されてるんですか?】

「………」

雅空は迷っていた。
ここで嘘をつきたくない。
でもヤクザなんて言えば、確実に嫌われる。
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