あの夏、わたしはキミに恋をした。
「今日打って走ったとき、大げさだけど俺生きててよかったってそう思った」
「…うん」
「事故にあったとき、俺死ぬのかなって一瞬思った。スリップした車がつっこんでくる瞬間がスローモーションのように感じて、でも痛みはすぐにきて。そのとき一番に浮かんだのは桃菜だった。今までずっと頑張ってきた野球ができなくなることよりも、桃菜に会えなくなるほうがよっぽどつらいと思った」
事故のときのことを大輝から聞くのははじめてだった。
車がつっこんでくるなんて想像を絶するほど怖かったはずだ。
それでも大輝はそんなこと感じさせないくらいずっと強かった。
そしてわたしのことをずっと思ってくれていた。
「でもいざ目が覚めてぐるぐる巻きの足をみたら一気にどん底に落ちた気分だった。野球ができなくなるなら、もう桃菜にも会うことはできないって勝手に思い込んで桃菜を遠ざけた。あのときは本当にごめん」
「…気にしてないよ」
「ありがとう。さっき誘ってくれてありがとうって桃菜はいったけど、俺のほうこそ感謝してる。俺にもう一度夢を与えてくれてありがとう。俺も桃菜のこと大好きだ」
わたしたちはそのあとまるで甲子園出場を決めたかのように今日勝てた喜びをわかちあった。
とても幸せな時間だった。