あの夏、わたしはキミに恋をした。

「っ、なにこれ」

勝手すぎる。

こんな手紙だけ残していなくなるなんて。

「木下さんごめん」

「っ…どうして上野くんが謝るの?」

「…もうひとつ隠してたことがあるんだ」

「隠してたこと?」


私の言葉に上野くんはゆっくりと頷き、そして口をひらいた。


「本当は…本当は大輝はもう野球ができなかったんだ」

その言葉に鈍器で頭を殴られたような感覚がした。


「おばさんと監督だけが知ってて、俺も聞いたのは夏の予選の少し前だった。あいつ頑なに教えてくれなかったんだけど、それでも詰め寄ったら教えてくれたよ。でも木下さんには黙っててほしいって頼まれた」

「どうして…」

「桃菜はずっとそばで夢を応援してくれて、俺にもう一度野球ができるよって励ましてくれてずっとサポートしてくれて。そんな桃菜にいまさらできないなんていえなかったって」

「そんな…」

「本当は試合にもでないつもりだったんだと思う。でも監督に頼み込んでベンチ入りさせてもらった。正直あいつがでたいっていったときは驚いたけどな。でも多分木下さんにみせたかったんだと思う。リベンジとなるあの試合で打つ姿を」
< 246 / 263 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop