あの夏、わたしはキミに恋をした。
「すごい怒られたよ、なんで桃菜のこと置いていくんだよ、野球馬鹿!って」
「はは…遥らしい」
ついに本人に向かって野球馬鹿といったのか。
大輝に向かってそういえるのはきっと遥だけだろう。
「そのときに一緒に上野が結婚すること知って。友達ならくるよねっていわれたんだ。本当はめちゃくちゃ迷った。でも桃菜は当日どうしても外せない用事があってこれないって聞いて…それならいいかなって思った」
「…そんなにわたしに会いたくなかった?」
「そうじゃない…そうじゃないんだけど。桃菜に合わせる顔がないから、だから…」
「わたしはね、大輝にずっと会いたいって思ってたよ。10年もたつのにずっと大輝のこと忘れられなかった」
「…」
「わたしね、夢かなえたよ。今はホテルの厨房で働いてるの。まだまだ見習いだけどね。あのとき大輝がわたしの夢を応援してくれたおかげだよ」
「すごいな、桃菜は夢をかなえたんだな」
大輝が少しだけ微笑んでくれる。
でもその顔はすぐに歪んだ。
「やっぱり俺なんか釣り合ってなかったんだよな。だからよかった…別れて正解だった」
大輝はそういうと立ち上がった。
「大輝?」
「ごめん。やっぱり上野の結婚式もいくのやめるわ。木村さんにもそういっておいて」
「…っ、まって」
わたしの声は届かずに大輝はそのままいってしまった。