最低なのに恋をした
トントンと戸を叩く音がして引き戸が開き「お待たせ」と専務のお姉さんが顔を出した。
それと一緒に食欲をそそるお出汁のいい匂いがフワッと香る。
目の前に旬の野菜天ぷらとザル蕎麦が並べられた。
「美味しそう」
思わず心の声が口から出てしまった。
「気に入ってもらえるとうれしいな」
お姉さんはニッコリ笑ってくれた。
「はい」
私もつられて笑顔になる。
「安西さんは顔にでるね」
クスクス笑いながら専務が私の顔を見ている。
自覚はある。私は感情が顔にでやすい。
「…気をつけます」
先程までの笑顔は専務の言葉ですぐに引っ込んだ。
仕事中は表情に感情が出ないよう、常に気をつけている。
それなのに。どうも専務の前では気がつくと表情に気持ちがてしまっているようだ。
「わかりやすくていいよ」
それはどういう意味?と専務の顔を見る。
そんな私を見て専務だけでなくお姉さんもプッと吹き出した。
「ごめんなさいね。安西さんが可愛くてつい」
お姉さんが笑いながらフォローしてくれるが「可愛い」なんてフォローになってない。
私は可愛いタイプではない。
「怒らないでよ。褒めてるんだよ」
専務も笑いながらフォローになっていない言葉をかけてくる。
2人の反応にムッとしながらも「さぁ食べよう」と促され、食べ始める。
「美味しい」
お蕎麦を一口食べた私はムッとしていた感情が浄化された気持ちになった。
「よかった。蕎麦粉に拘ってるの。夫も喜ぶわ」
お姉さんが目を細めて私を見る。
専務がさっきお姉さん夫妻のお店だって言った事が頭に浮かぶ。
「ご主人は今厨房にいらっしゃるんですか?」
「そうよ。普段は従業員もいるんだけど今日は定休日だから私と夫だけ」
「定休日に申し訳ありません」
思わず謝ってしまった。
「全然。弟が強引に連れてきたんでしょう。安西さん、ワガママな弟をよろしくね」
優しく笑うお姉さんの切長の瞳は専務に似ている。
「はい。秘書としてサポートさせていただきます」
お姉さんが個室から出て行った後、黙々と目の前の天ぷらと蕎麦を食べる。
カボチャにナスに揚げたての天ぷらは美味しい。これはいくらでも食べられてしまいそうだ。
食べることに夢中になりそうな自分にブレーキをかけ、チラリと専務を見る。
専務は同じように黙々と食べていて本題に入る様子はない。
「専務」
お昼の休憩もそろそろ終わる。
ここにきた目的を果たさなければ。
「ん、どうした?」
専務が私に視線を向ける。
「打ち合わせというのは?」
そう、打ち合わせがあると外に連れ出されたのだ。専務はわすれているのだろうか。
「ああ、ないよ」
短いけれど耳を疑いたくなる一言が個室に響く。
それと一緒に食欲をそそるお出汁のいい匂いがフワッと香る。
目の前に旬の野菜天ぷらとザル蕎麦が並べられた。
「美味しそう」
思わず心の声が口から出てしまった。
「気に入ってもらえるとうれしいな」
お姉さんはニッコリ笑ってくれた。
「はい」
私もつられて笑顔になる。
「安西さんは顔にでるね」
クスクス笑いながら専務が私の顔を見ている。
自覚はある。私は感情が顔にでやすい。
「…気をつけます」
先程までの笑顔は専務の言葉ですぐに引っ込んだ。
仕事中は表情に感情が出ないよう、常に気をつけている。
それなのに。どうも専務の前では気がつくと表情に気持ちがてしまっているようだ。
「わかりやすくていいよ」
それはどういう意味?と専務の顔を見る。
そんな私を見て専務だけでなくお姉さんもプッと吹き出した。
「ごめんなさいね。安西さんが可愛くてつい」
お姉さんが笑いながらフォローしてくれるが「可愛い」なんてフォローになってない。
私は可愛いタイプではない。
「怒らないでよ。褒めてるんだよ」
専務も笑いながらフォローになっていない言葉をかけてくる。
2人の反応にムッとしながらも「さぁ食べよう」と促され、食べ始める。
「美味しい」
お蕎麦を一口食べた私はムッとしていた感情が浄化された気持ちになった。
「よかった。蕎麦粉に拘ってるの。夫も喜ぶわ」
お姉さんが目を細めて私を見る。
専務がさっきお姉さん夫妻のお店だって言った事が頭に浮かぶ。
「ご主人は今厨房にいらっしゃるんですか?」
「そうよ。普段は従業員もいるんだけど今日は定休日だから私と夫だけ」
「定休日に申し訳ありません」
思わず謝ってしまった。
「全然。弟が強引に連れてきたんでしょう。安西さん、ワガママな弟をよろしくね」
優しく笑うお姉さんの切長の瞳は専務に似ている。
「はい。秘書としてサポートさせていただきます」
お姉さんが個室から出て行った後、黙々と目の前の天ぷらと蕎麦を食べる。
カボチャにナスに揚げたての天ぷらは美味しい。これはいくらでも食べられてしまいそうだ。
食べることに夢中になりそうな自分にブレーキをかけ、チラリと専務を見る。
専務は同じように黙々と食べていて本題に入る様子はない。
「専務」
お昼の休憩もそろそろ終わる。
ここにきた目的を果たさなければ。
「ん、どうした?」
専務が私に視線を向ける。
「打ち合わせというのは?」
そう、打ち合わせがあると外に連れ出されたのだ。専務はわすれているのだろうか。
「ああ、ないよ」
短いけれど耳を疑いたくなる一言が個室に響く。