最低なのに恋をした
ピッとカードキーをかざし施錠を解除し扉を開ける。

「専務、おはようございます。失礼します」
大きな声で挨拶をし靴を脱ぐ。
中から返事はない。まだ寝ているのだろう。

私はリビングのドアを開けて中に入る。
リビングのバーチカルブラインドを全開にし室内に光を入れる。
タワーマンションの最上階の窓からの眺めは写真のよう。

次にキッチンへ向かう。

専務の体調を整えたいと考えた結果、朝食にたどりついた。
専務の朝食が栄養補助食品と言われるゼリー飲料だということがわかったのだ。
朝、食べるのが面倒だから。エネルギーやらビタミンやら目的の栄養素が手軽に摂れるから。
などなど専務は理由を並べていた。

それで良いわけがない。

「20代はそれで良かったかもしれませんが、30代は気をつけないと倒れますよ」

と正論をぶつけてみた。30歳の専務は体調を崩したばかり。

そこで私は佐田家のベテラン家政婦吉田さんに相談することにした。

専務が体調を崩し、私がリビングで待機していたあの日。丁度吉田さんが来る日だった。

顔を合わせ挨拶をし、専務の体調について話をしていく中で連絡先を交換しようという事になったのだ。

吉田さんは田舎のお母さんのイメージにぴったりな温かい雰囲気の女性だ。
話してみるとニコニコ笑い、秘書の私にも気さくに話してくれるので、私もつい喋りすぎてしまったほどだ。

私が専務に朝食を用意したいと相談したところ、おむすびとお味噌汁を提案されたのだ。

吉田さんは専務の部屋の掃除に来たときは、その日の夕飯をつくり冷蔵庫に入れて帰るという。

ただ、会食の予定も多いため確認してからつくっていることもあり回数は多くないとのことだった。

吉田さんも専務の朝食は気になっていたという事で、おむすびの具材の一例とお味噌汁のレシピを教えてくれた。
お味噌汁は佐田家の味なので専務も食べてくれるはず。再現できるかはわからないけど。

そこまで話が進んだところで、専務に朝食の提案をしてみた。

「朝食に簡単なおむすびとお味噌汁をお持ちしたいのですが」

「朝食?どこに?」

専務は不思議そうな表情を浮かべる。

「ここ専務室にです。おむすびとお味噌汁は佐田家家政婦の吉田さんに教えていただいています」

私がつくり、お味噌汁も入れられる保温できるお弁当箱に入れて来るという予定だ。

「吉田さんと連絡取ってるの?」

「専務が体調崩した時にお会いしまして。連絡先を交換しました」

「それってプライベートの番号?」
専務は何故かムッとしている。

「そうですが。ダメでしたか?」

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