最低なのに恋をした
予想外の反応に戸惑ってしまう。
吉田さんは会社関係者ではないのだから、プライベート…だと思っていたけれど。

「俺はまだ教えてもらってない」

「何を?」

専務の機嫌が悪く見えるのは気のせいだろうか?

「安西さんのプライベートの番号」

「えっ」
その言葉に思考が停止するような気がした。

「必要あります…?会社用の携帯番号はお知らせしてますよね」

専務はじっと私の顔を見て溜息をついた。

「あの事件の日、俺のプライベートの番号に電話してくれたけど会社の電話からだし」

あの時は会社用の電話に繋がらず、プライベートの番号にかけた。緊急事態だったのでやむを得なく。

「それは会社用の携帯にも村田さんの携帯にも繋がらなかったので」

「あの時は笠原商事の副社長に挨拶をしていた時だったんだよ」

その事は後日同行していた村田さんから聞いた。帰る時にたまたま会ったという。
滅多にないレアケースということで携帯が鳴っていることは気づいていたが出れなかったと。

普段は商談中であっても電話の相手を確認し出る事もある。

まさか刃物男が押し入るなんて想像を超えているのだから仕方がない。

「それと私の番号は関係ありませんよ」
専務は不満そうな顔をしている。

「それより朝食の話です。先日のように体調を崩されては困りますから。栄養と休養が大事です。なので、朝食だけでも食べませんか?」

本題に戻る。私のプライベートの番号など関係ない。

「それじゃあ、安西さんが俺のマンションにつくりにきてよ」

「え、イヤです」

専務の要望に対して私は無意識にかぶせ気味に拒否する。

専務はムッとした表情を崩さない。

「それじゃあ食べない」

小学生男子のような拗ね具合に苦笑する。

「専務、30歳で拗ねても可愛くありませんよ」

顔は相変わらずいいですけど。性格に可愛げを感じません。

心の中で補足する。

「可愛くないって初めて言われた」

「流石にその発言は引きます」

今日の専務は『少年の心』を振りかざしているような態度だ。
刃物男の件でストレスが溜まっているのかもしれない。

専務の表情は相変わらずムッとしている。
私が折れるべきか。
でも、一秘書がマンションに出入りしていいはずがない。

「監視してよ」

専務から驚きの言葉が出た。
「は?」

「室長から同行するように言われてるのって、トラブル防止でしょ」

「まあ、間違いではないです」

トラブルに発展しそうな芽は積んでおく。

「それなら、朝マンションにくれば、俺が外泊していない事。女性を連れ込んでいないかの確認ができる」

それらしい事を言って論破しようとしているのがハッキリとわかる。
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