最低なのに恋をした
「お見合いの件はわかった。席に戻るね」

私はモヤモヤを抱えたまま専務のいるカウンター席に戻る。

「大丈夫?」
専務が私の顔を見る。
「はい。大丈夫です」

私の中のモヤモヤは専務の顔を見るとでイライラに変わった。

私が席に着くと従業員が飲み物を持ってきた。

目の前のビールを見つめる。
飲みたい気分だ。

「大丈夫じゃない顔してるよ?」
専務は困った表情を浮かべる。
私はムッと黙ってしまう。

普段、こんな態度を専務に取ることはない。
兄の店、ということでアウェイではなくホームにいる安心感がこんな態度をとらせているのか。

それともただただ、ショックだったのか。

私はビールを一気に半分飲んだ。

「告白してないのに、フラれた気分です」

そこまで言ってから、残りのビールを飲み干した。

カウンターにいる従業員と目が合い、すぐに私の前まできた。
「ご注文は?」

「甘くない、強めのお酒を下さい」

今日は飲んでやる。

「え、大丈夫?」
専務は驚いた様子で私を見る。

「だから、告白してないのにフラれた気分なんですって」

「どうしたの?」

「…わかりませんか?」

専務を見る。専務は困った表情をして私を見ていた。

「お待たせしました」
温サラダとボロネーゼ、スープが目の前に置かれる。
そして私にだけ2杯目のビールが置かれた。
「ビール?」
目の前には兄が呆れた顔をして立っていた。

「何が強いお酒だ。お前は2杯目もビールだ」

従業員から私の注文を聞いて、兄が自らビールを用意したのだろう。

「お客様なんですけど」
「妹だろ」
「いーよ。ビールたくさん飲んでやるから」

私はグラスを持ったその時。

「桜木さん」
兄が専務に話しかけた。

「はい」

「忘れていた妹にも落ち度がありますが、お見合いの件を妹に話さなかったのは何故ですか?」

オーナーとしてではなく、兄として専務に話をしにきてくれたようだった。

「お兄ちゃん」

私は聞きたかった事なのに、専務の口から出る言葉を聞きたくないと思ってしまった。

申し込んできた男性側から、見合い前に断るなんてなかなかあることではない。

「父が連絡を入れて謝罪したことは聞いています。申し訳ありません」

私は専務をみる。専務は真剣な表情で兄に話し始めた。

「美月さんにお見合いの話をしようと思っていたタイミングで、私のこれまでの素行の悪さからトラブルを起こしてしまいました」

「素行の悪さ?」

兄の表情がますます険しくなる。

「はい。そのトラブルが原因で父が安西さんに申し訳ないと今回の話を断るという判断をしました」

3人の間に沈黙が流れる。
私はふと社長に「申し訳ない」って言われた事を思い出した。

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